「ゴールに到達するまでに直面するたくさんの辛いこと、大変なことって、頂に到達するために必要なことだと思うんです。それは頂に近づいている証拠だし、うまくいくかどうかの分岐点だから。僕は常に一番を目指しています。でも、野球を始めた頃からずっと身体は小さかった。それでも“ホームランを打ちたい”という気持ちは誰よりも持っていたし、それだけの練習もしてきた。これからも僕は、そうして生きていくつもりです」

 ゆり香夫人は言う。

「生きているとくじけそうになるときがありますよね。ついつい、“何で、私ばっかり……”という思いになったり、“どうして、自分だけこんなに大変なんだろう?”と思ってしまったり。なかなか感情を表に出すことはないかもしれないけど、主人だって、ついついそんな思いになることもあると思います。でも、カンボジアに行って、ほんのわずかかもしれないけど、現地の子どもたちと触れ合ったことで、“大変なのは自分だけじゃないんだ”という思いになったようです」

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「やっぱりカンボジアに行ってよかった」

 遠征先から戻ってきて、翌日は少しだけゆっくりできるという前日の夜、吉田夫妻はしばしば、自分について、家族について、人生について、話し合うことがあるという。

「主人の性格的に、真正面から“こうした方がいい、ああした方がいい”とこちらの意見をぶつけるのはあまり意味がないし、彼はそうしたことが好きじゃないんです。だから、何か言いたいことがあっても、いつもフランクな会話を心がけています。でも、人生について真剣な話をするとき、今後について真面目に話し合うときには、私の意見もきちんと聞いてくれます」

 吉田の大きな美点として、「聞く耳を持っていること」と言ったのはマッサージセラピストの内窪信一郎氏である。夫人もまた同じことを感じていた。

「主人が私の意見もちゃんと聞いてくれるから、普通だったらケンカになってしまうような内容でも、お互いにざっくばらんに何でも話すことができます。それは、日本にいたときよりも、アメリカに来てからその機会はずっと増えました……」

 そして、少し照れたような口調でゆり香さんは続けた。

「結婚してもう何年も経つし、子どもも2人生まれたけど、今がいちばん夫婦仲がいいと思います。アメリカに来る前は不安ばかりだったけど、“やっぱり来てよかった”という思いが本当に強いです。そして……」

 静かな口調ながら、ゆり香夫人はハッキリと言った。

「……たった2泊3日だったかもしれないけど、やっぱりカンボジアに行ってよかった。主人だけでなく、私たちもついていってよかった。自信を持ってそう言えますね」

写真はイメージ ©Paylessimages/イメージマート

 多忙なスケジュールの合間を縫って「若者の家」の子どもたちに会いに行くと決めたこと。そんな夫とともに小さな子ども2人を連れてまで、一緒に行くと決めたこと。

 それ以前に、「アメリカでプレーしたい」と決めたこと。そして、「家族みんなで応援しよう」と決めたこと。

 吉田の決断、夫人の決断――。

 それぞれの決断が、「現在」を生み出した。人生は大小さまざまな決断の上に成り立っている。こうした決断の連続によって、人は自分の人生を生きている。

次の記事に続く 「シバキなんか絶対にしなかった。ただ…」後輩・西川龍馬が明かす、先輩・吉田正尚の“高校時代”の姿とは

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