メジャーリーグでの激闘を終えた短いオフシーズン。のんびりハワイ旅行でもできそうなものだが、吉田正尚は、自身が支援する自立支援施設「若者の家」を訪問するため、カンボジアへと飛んだ。しかも、2歳と3歳の幼い子どもを含む家族全員で。

 吉田正尚はなぜカンボジアで支援を行っているのか。チャリティに熱心な夫を妻のゆり香夫人はどのように思っているのか。ここでは、ノンフィクション作家の長谷川晶一が、吉田正尚という一人の人間に迫った『決断ーカンボジア72時間ー』(主婦の友社)の一部を抜粋して紹介する。

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ゆり香夫人の決断

 今回のカンボジア訪問決定について、吉田の決断にも驚いたけれど、ゆり香夫人の決断にも驚いた。乗り換え便を待つ間、ベトナムのホーチミン空港でのことだ。僕の隣の席では、子どもたちが走り回っている姿を、夫人が見守っていた。

「小さな子どもたちを連れてカンボジアに行くことに不安はありませんでしたか?」

 私の問いかけに対して、夫人は言った。

「多少の不安はあったけど、百聞は一見に如しかずで、夫が支援している国をこの目で見てみたい気持ちの方が大きかったですし、主人もいるので、“まぁ、何とかなるでしょ”っていう感じです(笑)」

吉田夫妻 写真は吉田ゆり香インスタグラムより

「短いオフだからこそ、家族一緒に過ごす時間を大切にしたかったのですか?」

 子どもたちの姿を目で追いながら、夫人が続ける。

「元々、主人だけカンボジアに行くという提案をいただいていましたよね。でも、今年のオフは、家族で過ごす時間がほとんどなかったので、“できたら、家族一緒に行きたいね”と話していたんです。そして主人が、“家族も一緒に行ってもいいですか?”と聞いてみるとOKだったので、“それならば……”ということで、みんなでやってきました」

 BLF(編集部注:NPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーション)の岡田代表が証言する。

「当初は本人だけでカンボジアに行く予定でしたけど、吉田選手から、“家族と一緒に行ってもいいですか?”と尋ねられました。フィリピンやバングラデシュと比べれば、比較的治安はいいとは言うけれど、それでも海外のことなので、どんなトラブルが起こるかわかりません。リスクを伴うことなので、その点も説明しました。けれども、“それでも構いません”と彼は言いました。“家族の分の航空費、宿泊費もお支払いはできません”ということも伝えました。やはり、“それでも構いません”ということなので、改めて小さなお子さんも含めた対策を考えたんです」