吉田同様、彼女もまた人生の大一番において、大きな決断を下していた。吉田も、ゆり香さんも「決断の人」なのである。

「若者の家」に向け、5時間のロングドライブ

 12月20日、朝――。

 私たちが宿泊しているアンコールパールホテルを出発し、J7ホテルに到着したのは7時過ぎのことだった。すでに朝食を済ませていた私たちは1階ロビーに集まった。約束の時間から少し遅れて吉田が現れる。

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「すみません、子どもがちょっとぐずってしまって……」

 ゆり香夫人と二人の子どもたちは、この日はホテルで留守番をすることになっていた。これから数時間かけてのロングドライブがあること。途中、移動のために足元の悪い山道を歩かなければならないこと。そして移動中にインタビューがあるためだった。

 前日同様、吉田の顔には興奮や高揚感は見られなかった。ついに念願だった現地視察が実現する。「若者の家」では、子どもたちが歓迎セレモニーを準備しているという話も届いていた。あと数時間で、カンボジアの子どもたちと対面できる。彼ら、彼女たちは一体、どんな子たちなのだろうか?

 しかし、その表情を見る限りでは、吉田はいたって冷静であり、これからスペシャルイベントが待ち受けているようには見えなかった。

 一方の私は、内なる興奮を隠すことができなかった。ようやく眠りについたのは4時頃だっただろうか? その前日から考えるとほとんど寝ていなかったけれど、不思議と疲れは感じていなかった。間違いなくそれは、旅の高揚感であり、「若者の家」の子どもたちへの興味であり、「吉田正尚」という人物への好奇心が募っていたからだろう。

 この日も2台に分乗して、「若者の家」に向かうこととなった。私は吉田とともに1号車に乗り込む。ようやく、ゆっくりと話を聞くチャンスが訪れた。道中、レストランでの昼食を挟んで、およそ5時間のロングドライブだ。話を聞く時間はたっぷりとある。

 私たちを乗せた車がゆっくりと滑り出す。

 シェムリアップの街並みを抜けると、すぐにのどかな田園風景が広がってくる。空は青い。12月とはいえ、木々には緑も生い茂っている。ホテルを出発して30分が経過した頃、隣に座る吉田に切り出した。

「そろそろ、お話を伺ってもいいですか?」

 車窓を眺めていた吉田が口を開く。

「どうぞ……」

 私はICレコーダーのスイッチを入れながら、用意していた最初の質問を投げかける。

「そもそも、チャリティ活動に興味を持つきっかけは何だったのですか?」

次の記事に続く 「金さえ払えば支援は終わり」ではない…吉田正尚がカンボジアまで足を運んで確かめたかった“ホームラン数に応じた支援”の“本当の価値”《プロスポーツ選手×社会貢献の実態》

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。