身近にレイオフが起きたことは何度かあった。衝撃だったのは、この会社に初めて足を踏み入れた日のことだ。
「まだ社員になる前、仕事を手伝ってほしいと言われてオフィスにきたんです。アメリカ人のエンジニアがたくさんいて、これから同僚になるからよろしくとみんなに挨拶したら、ガン無視されたんですよ。なんか怖い人たちだなぁと思って」
社長に挨拶した井上さんは、率直に第一印象を述べた。
「職場の空気、めっちゃ悪いっすね」
社長の返事は意外なものだった。
「実はね、彼ら全員をレイオフしたばかりなんだ」
エンジニアたちの冷たい態度も無理はなかった。井上さんは彼らが去ったあとの会社を立て直すファウンディングエンジニアとして雇われるのだ。「そんな日に呼ぶなよって思いました」と井上さんは苦笑する。
米国で「レイオフ」は日常茶飯事
井上さんがレイオフされる前年、別の会社で働いていた妻もレイオフを経験した。幸いなことに、その通知の1週間前に夫婦で渡米10年目にしてグリーンカードを取得したばかりだった。
グリーンカードがあれば、雇用に依存せず無制限でアメリカに滞在できる。職業も自由に選べる。H-1Bなどの就労ビザで働く外国人にとって、レイオフは深刻だ。ビザは雇用に紐づいているため、解雇されると60日間の猶予期間内に次の雇用先を見つけるか、帰国しなければならない。たとえ再雇用が見つかっても、ビザの移行が完了するまで就労が許されないから、アルバイトで食いつなぐこともできない。井上さんの就労許可は、妻のビザで配偶者として与えられたものなので、もしグリーンカード取得前に妻がレイオフされていたら、帰国を迫られた可能性がある。
「まるで映画みたいな綱渡りのタイミングでした」と井上さんは振り返る。
アメリカのレイオフは、正確には日本でいう「クビ」とは異なる。Fire(懲戒解雇)が個人の問題を理由とするのに対して、Layoffは業績不振や事業再編といったビジネス上の理由による整理解雇。At-will(自由意志雇用)が原則のアメリカでは、企業側も従業員側も、いつでも理由なく雇用関係を終了できる。