しかしグリーンカードを取得したから、日本への帰国を迫られることはない。選択肢は山ほどあり、じっくり次のステップを考えることができた。ひとまず選んだのは、人生初の「働かないアメリカ生活」。走りつづけた15年間を経て、初めて得られた休息だった。

井上さんのライフワークにワインづくりがある。カリフォルニア・ワインに魅せられ、2019年10月に妻や友人たち4人で「SUNSET CELLARS」という小さなワイナリーを買い取り、共同オーナーになった。年間生産数は500ケースと少ないものの、手間暇をかけた手作りによる豊かな果実味が特徴のクラフト・ワイナリーだ。

日本のスタートアップで「新たな挑戦」

しばらくワインづくりに熱中しながら、いくつかオファーを受けていた業務委託のプロジェクトに着手しはじめた。フルタイムの仕事は探さない。自分のペースで働きながら、好きなワインに没頭する暮らしが10カ月ほどつづいた。

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新たな挑戦は2025年3月に始動した。日本のスタートアップSANUの執行役員(CCXO兼ソフトウェアエンジニア)に就任したのだ。

SANUの事業は、日本各地で自然の中に「もう1つの家」を建築し、サブスクや共同所有から気軽に自然へ通える暮らしを提供するというもの。山中湖や軽井沢といった首都圏からのアクセスがよい場所を中心に、北はニセコ、南は奄美大島や石垣島まで「もう1つの家」の建築を進めている。井上さんの知識と経験を活かせる「建築+IT」の分野だ。

きっかけはワイナリーの空いている土地に、宿泊施設を建設したいと考えたこと。日本のリゾート事業者と連絡をとるうちに、SANUの福島弦社長と出会って意気投合。初めはパートタイムの業務委託エンジニアとして、同社の事業に参加した。

ものづくりで「究極の夢」を実現する

執行役員に就任する際、アメリカに住みつづけ、SANUの仕事に支障がない範囲で、ワイナリー事業や他の仕事もできることを条件とし、快く受け入れてもらえたという。