1カ月で13キロ減…覇気のない声に哀切ただよう

『ばけばけ』人気の3分の1は錦織の存在が担っていたといってもいい。制作統括の橋爪國臣チーフプロデューサーは『ばけばけ』をトキ(髙石あかり)とヘブンと錦織の物語であると言っていた。ヘブンを中心に、彼を支えたふたりの重要人物という意味合いであろう。妻のトキ、リテラリーアシスタントの錦織。錦織は献身的にヘブンの執筆に尽力し、なかなか他者に心をゆるさずに生きてきたヘブンは、トキと錦織には心を開くことができた。だがヘブンに献身的に尽くした錦織がどんなにすがってもヘブンは頑として熊本に行ってしまう。ひとり残された錦織は絶望し、見送りにもいかない。最高の創作あるいは研究におけるパートナーだったはずのふたりの悲しいすれ違いはドラマを大いに盛り上げた。

『ばけばけ』公式Instagramより

 錦織不在の熊本編はなんだか物足りない。そんな視聴者も少なくないなか、切ないお別れを描いた第19週から3週間経った第23週で再び錦織が登場した。

 びっくり。

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 別人かと思うほど錦織は痩せていた。

 吉沢亮は錦織友一という役にどれだけ心を注いでいるか、その気迫にはどんなよくできたこわい怪談よりも筆者はゾクリとなった。

『ばけばけ』公式Instagramより

 橋爪CPによると、錦織が再登場するシーンを撮るまで、減量のために1カ月以上は空けてほしいと吉沢からリクエストされたという。実際、1カ月ほどの間に13キロくらい体重を落として現場に戻ってきた。ドラマのなかで再会した錦織の顔を見たヘブンやトキの呆然とした表情のように、スタッフもなっただろうなと思う。筆者もテレビの前でヘブンやトキみたいな顔をしていたと思う。驚きながらも、理由は聞けないから平静を装って見せるような感じ、そういう演技を共演者から引き出すことも、俳優の才能である。

 ここでも吉沢は声を武器にしている。一気に痩せたせいか、声に力がない。この覇気のない声が激しく胸を打つ。「死ぬる覚悟が 聞きたい」とはまた違う哀切があった。

 語弊をおそれずに言えば、たかが朝ドラでここまでやるのか。というのは、朝ドラでは、登場人物が俳優の実年齢より何歳も上まで演じる際にも、あまり徹底した老けメイクをしないし、病気の役でも色艶のいい顔をしていることも少なくない。演劇的な視聴者の想像力と暗黙の了解で不足分は埋め、俳優は勢いで演じきるということもよくあることだ。朝の15分のスタジオ収録が主なカジュアルなドラマという位置づけなのである。たかが朝ドラ、されど朝ドラ。