2025年9月に始まったNHK連続テレビ小説『ばけばけ』は、淡い色合いで照明にこだわった映像であったり、川島小鳥の写真によるオープニング、主題歌と内容とのリンク、登場人物のなにげない会話劇、ときにコントのような時間などが、これまでにない“朝ドラ”として話題になっている。
ヒロインは、小泉八雲の妻・セツをモデルにした松野トキ。松江の武士の家に生まれたが、明治維新の混乱の中、父の司之介の作った借金のために学校にもいけず、働いて借金を家族と共に返す日々を送っていた。一度は武士の夫・銀二郎と結婚するも離婚。その後、英語教師として松江にやってきたレフカダ・ヘブンの家の女中となり、そしてやがて2人の間に愛情が生まれ、彼の妻となるという物語だ。
心中を雄弁に語るヒロイン・髙石あかりの演技
このドラマ、脚本のふじきみつ彦は「何も起こらない」作品だと語っているが、ストーリーだけを追うと、トキの人生はかなり波乱万丈だ。波乱万丈だからこそ、登場人物の心の中に起こった変化を繊細にとらえるような物語にもなっている。
そんな中でも、やはりヒロインの演技がその心の中の出来事を雄弁に語っているところが大きい。
トキは、幼い頃に父の作った借金のために、働いてきて、自分のやりたいことをどこかに置いてきた人物。それは、彼女の親友であるおサワのように、自分で勉強して正規の教師になろうとするようなキャラクターとは一線を画す。だから、なかなか自分の力で長屋から出られないおサワと比べて、ヘブンとの結婚で長屋を出られたトキは“シンデレラ”と評されるシーンすらある。
ただ、シンデレラになるのは楽なことではない。当初、ヘブンの家の女中の候補にトキの名前が挙げられたとき、周囲で彼の身の回りの世話をしている錦織をはじめ誰もが、女中というのは、身の回りの世話に加えて、彼の夜の相手もするものと考えていた。当初はそんなことには応じられないと考えていたトキだが、自分の生みの母親である雨清水タエ(北川景子)が、元は高貴な武家の生まれであるのに、今では物乞いをしている姿を見て、女中になることを決意する。




