そこで、人生を変えるひらめきが生まれる。

「魚をさばく仕事をしよう。どうせやるなら、インパクトのある一番でっかい魚がいい。それなら、マグロだ。マグロをさばけるようになったら絶対にかっこいいぞ!」

 このひらめきが、彼女を「マグロ解体師」の道へと導くことになる。

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 そもそも李奈さんは、特段、魚が好きだったわけではなく、どちらかというと肉が好きだった。だが、この直感はみるみる確信に変わっていく。

 自宅に戻ってさっそく調べると、女性で本格的にマグロの解体をしている人は九州などにわずかにいる程度で、まだまだ少ない。この技術を得られれば、生き残れると考えた。

 さて、修業するならどこがいいか?

「目指すなら日本一だ。魚市場の聖地、豊洲。そこしかない」と李奈さんは思った。

看板デザイナーからマグロ解体師に転身した

「女の子には無理だよ」「やめときな!」と門前払いされたが…

 ただ、未経験の若い女性が突然「マグロをさばかせてください」と飛び込んで、すんなり受け入れられるほど甘い世界ではなかった。履歴書を送っても断られるだけだと悟った彼女は、豊洲の水産業者の求人を見つけては電話をかけたが、予想通り分厚い壁にぶち当たる。

「女の子には難しい。無理だよ」

「大変だし辛いよ。やめときな!」

 5軒連続で断られ、同じ言葉が返ってきた。だが、6軒目は違った。かけた電話の先は、現在の職場である「キタニ水産」だった。対応したのは宮下太郎店長で、「女の子で未経験なんて変わってるね。面白いね」と話を聞いてくれた。そして、丁寧にこう言ってくれたという。

「マグロをおろすことだけが仕事じゃない。“おろす”ってことは“売る”ってことだから、やりたいことだけをやらせてあげられないよ。でも、興味があるなら一度東京に見においで」

 他の会社がすぐに断っていたのに対し、宮下店長はなぜ李奈さんを受け入れたのか? その真意を宮下店長に聞いたところ、こう返ってきた。

「最初は、マグロを解体するという外側だけを見て連絡してきたのかなと思ったんです。朝も早いなどのデメリットも説明しました。それでも彼女は『やりたい』と言ったんです。何事もそうですが、やりたいという子にやってもらった方がうまくいくものです。だから、性別抜きにして、やる気があるならウェルカムですよと伝えました」

「ここで私働きたいです、雇ってください」マグロをさばく姿に心を射抜かれた

 電話を切ったその週末、李奈さんは新幹線に乗り込み、店舗へ向かった。そこで宮下店長が80キロのマグロをさばく姿を目の当たりにした瞬間、彼女はこの仕事に完全に心を射抜かれた。

 

「見たことのないくらい大きな魚をさばいている姿を見て、『かっけえ!!』って。『ここで私働きたいです、雇ってください』って、その場で言いました」

 こうして、看板デザイナーだった彼女は、包丁すら握ったことのないまま、豊洲・築地のマグロ屋へと足を踏み入れることになったのだ。

撮影=杉山拓也/文藝春秋

次の記事に続く 「男ですら大変なのに」“魚をさばけなかった女性”が160kg超のマグロを次々と解体…「築地のツナプリンセス」が“男社会”で貫く覚悟

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