大きなマグロを次々と解体していく女性が、SNSで注目を浴びている。高橋李奈さん、31歳。「ツナプリンセス」として知られる彼女の動画は、140万回再生を超える。

 完全未経験だった彼女が、「築地の女性マグロ解体師」としての地位を築くまで、どんな苦労があったのか。男性ばかりの水産業界で「女性であることを諦めたくない」と話す彼女の覚悟とは――。フリーライターの池田アユリ氏が取材した。(全2回の2回目/1回目から続く)

女性マグロ解体師・高橋李奈さん ©杉山拓也/文藝春秋

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「プロから見ても素晴らしい技術」と称賛される包丁さばき

 築地にあるマグロの仲卸業者「キタニ水産」の店頭。朝7時、早朝の活気が残るなか、女性が一人で160キロ超の長崎県産・本マグロに向き合っていた。同社7年目の社員、高橋李奈さんだ。

 彼女が握るのは、全長約90cmの太刀(たち)と呼ばれる長い包丁だ。

 骨の位置を読みながら、迷いのない手つきでゆっくりと刃を入れていく。その姿を固唾を飲んで見守っていた客の1人――スーパーの水産部で10年以上働き、現在は大阪で魚を捌く教室を営んでいるという男性がこう言った。

「男ですら10キロの魚をさばくのも大変なのに、ほぼ1人であのマグロを解体するなんて。しかも、力ずくじゃないんです。見てください。中骨に身をまったく残していない。プロから見ても素晴らしい技術ですよ」

 たしかに、包丁の切れ目は、マグロの背骨がはっきりと見え、骨に残っている身はほとんど見当たらない。

 巷では「築地のツナプリンセス」と呼ばれる李奈さん。未経験から飛び込んだ築地市場で、彼女はどのようにしてその地位を確立したのだろうか。

初競りのマグロは5億円を超えることも。「解体前のマグロの値段は聞かないようにしています。さばく時に緊張してしまうので」と李奈さん

店長から「本気でやらねえんだったら帰れ!」と怒鳴られたことも

 李奈さんの朝は早い。朝4時頃から出社し、豊洲市場で競り落とされたマグロや鮮魚の買い付けと積み込みを行う。その後、7時頃に築地の店舗に戻り、巨大なマグロを解体して店頭で販売する。退社は夕方の16時半頃だ。

「マグロ解体師」という肩書きで呼ばれることも多いが、本業は仲卸(なかおろし)の営業だ。マグロの解体は単なるショーではない。綺麗に切り分け、客に買ってもらうための仕事だ。入社当初、技術も力もなかった彼女を待っていたのは、文字通り血の滲むような修業の日々だった。