魚のさばき方においても、独自の工夫を凝らした。男性に比べて力がない分、まず下準備として無駄なヒレなどを先に外し、扱いやすさを追求。包丁の入れ方も研究した。

 豊洲での買い付けに向かう際は、少しでも時間があれば、他社の魚の扱い方を目で覚えた。また、豊洲のトップブランドの職人の動画を見ては、自分でも実践した。入社5年目、宮下店長から「そろそろ、自分の太刀がいるだろう」と包丁を受け取った時は、嬉しすぎて飛び上がったという。

 入社7年目の今では、骨に身を残さず綺麗にさばく技術を身につけ、後輩の指導を行うまでになった。

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下準備として無駄なヒレなどを先に外し、扱いやすさを追求。包丁の入れ方にもこだわっている

「ツナプリンセス」が有名になったワケ

 彼女を一躍有名人にしたのは、1つの動画がきっかけだった。

 李奈さんは、入社当時から「ツナプリンセス」と名乗りSNSで発信していた。それを見たYouTubeチャンネル「Japanese Kitchen Tour」の配信者から「密着動画を撮影させてもらえませんか?」とDMが来たのだ。そのやりとりで、信頼できそうだと感じた李奈さんは、出勤からの取材を了承した。

 2025年夏、動画が公開されると、再生回数はまたたく間に100万回を突破。その数ヵ月後、ハワイ、シンガポール、香港など、海外の観光客からスマホを見せられ、「You?(これって、あなた?)」と声を掛けられるようになった。

 注目を集めているからこそ、周りへの配慮も欠かさない。李奈さんがマグロを解体していると、見物客がどんどん増えていく。すると、「周りの売り場の前に立たないように、少し移動していただけますか?」と声かけをしている姿が印象的だった。

1日3万円前後だった売上は、最高70万円を叩き出すまでに

 地道なコミュニケーション戦略と動画の影響は、店頭販売の売上に影響を及ぼした。1日3万円前後だった売上は、最高70万円を叩き出すまでに急成長を遂げたのだ。

「もちろん私だけの力ではないですが、行動を起こせば会社のためになるんだって実感しました」

 会社を巻き込みながら自分の立ち位置を構築している姿を見て、「上司にお願いするコツってありますか?」と李奈さんに聞いてみた。

「話すタイミングを見計らうのが大事です。例えば、上司の作業が終わりそうなところを見計らって、『思ったことがあるんですけど、相談にのっていただけますか』と言います。何か変えたい時、ちゃんと言葉にするのが、私のやり方です」

 ただ人懐っこいだけじゃない。ここ築地で、彼女なりの処世術が発揮されていることが窺えた。

李奈さんがマグロの解体を始めると、観光客が続々と集まってきた

「高校時代にお母さんを泣かせてしまった」離れて暮らす両親への思い

 前職の初任給は手取り11万円だったが、現在は月収が大幅に上がり、金銭的な不安も消えた。経済的な自立を果たし、世間からも脚光を浴びるようになった。

 メディアへの露出やSNSの発信には、会社の広告塔としての役割もある一方で、「離れて暮らす新潟の両親に喜んでもらいたい」という思いもあるようだ。