「高校時代にお母さんを泣かせてしまったことや、お父さんを大嫌いと言い続けていた負い目があって。社会に出て、父も大変だったのだと気が付くことができました。東京で頑張っている姿を見て、安心してもらえたら嬉しいんです」
今では、父親との関係は修復している。「少し離れて暮らしてるからこそいいのかも。私の仕事も応援してくれてます」と笑う。
「朝が早くても、お化粧をして店頭に立つ」理由
現在、李奈さんは31歳。同年代が結婚や出産というライフステージを迎えるなか、自身の今後については「どうなるか分からないなぁ」と笑う。
「今は、この仕事で活躍する女性を増やすことに夢中です。あまり前例がないからこそ、新しい働き方を作っていきたい。魚を扱う仕事って、大変で泥臭いイメージがあると思うんですけど、かっこいいと思ってもらえるようにしたい。未経験だろうが女性だろうが、本気でやれば壁は壊せる。私はそれをぶち壊したいんです」
従来のイメージを刷新し、新しい働き方を模索する李奈さん。「今の仕事をするなかで、意識していることはありますか?」と聞くと、「朝が早くても、お化粧をして店頭に立つことです」と意外な答えが返ってきた。
「『仕事一本、すっぴんで頑張ります!』っていうのは、私が目指していた姿じゃないなって。実際、化粧をして綺麗にしていた方が、お客さんも『この人から買いたい』と思ってくれて、売上も変わる。私にとっての『女性であること』を諦めたくないんです。その方がストレスもたまらないですから」
男性ばかりの業界で心が折れそうになった時の「お守り」
男性ばかりの水産業界において、彼女はしばしば奇異の目で見られた。周りの反応を気にして、心が折れそうになった時もあったという。それでも、「やってやる!」と思って向き合ってきた。そこには、彼女のお守りともいえる「競り帽」という相棒がいた。
競り帽は、区画ごとに限られた枚数しか配られない。キタニ水産では6着しかなく、早朝の競りに向かうことが許された李奈さんは、その1つを譲り受けた。つばについた名札には「キタニ水産」の文字。
「この帽子をかぶっている限り、(競りで)吹っ掛けられる心配が少ない。男性ばかりの豊洲の競りでも、会社を代表して来てるんだと、自信を持って臨めます」
取材が終わりに近づき、「昔はお肉の方が好きとのことでしたが、今はいかがですか?」と聞くと、李奈さんはフフッと笑った。
「今は断然、魚です。一番好きなのはマグロ……と言いたいところだけど、タチウオです。特に、タチウオの塩焼きが大好きです」
仕事に本気で、きれいになることも楽しむことも諦めない。人に慕われ、ちょっとだけ策略家のサムライは、今日も長い包丁を手に、築地で戦っている。
撮影=杉山拓也/文藝春秋
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