令和の不動産バブルはいつまで続くのか。都心部の中古マンションの価格は2021年から4年の間に、なんと1.5倍ほどになった。中には3倍近く高騰した物件もあるという。10億円を超えるような高額な物件を購入しているのは、主に香港や台湾の富裕層だ。
彼らはどうして日本の不動産を欲しがるのだろうか? ここでは、20年以上にわたり不動産業界を取材してきた吉松こころ氏の『強欲不動産 令和バブルの熱源に迫る』(文春新書)より一部を抜粋してお届けする。
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日本の不動産を持つのが夢だった
中国人が日本の法律や商慣習をよく知っていることを痛感した出来事がある。不動産歴30年の不動産コンサルタント兼ブローカーの西村明彦氏に聞いた話だ。
2025年夏、彼が売主代理として携わったのは、東京都・大塚と埼玉県・深谷の2棟のラブホテルだった。売主は日本人で、購入者は中国人。価格は、計6億8000万円だった。
「買ったのは本土出身の張さん(仮名)という男性でした。20年以上前に職工として日本に来たそうです。下積みのあと、宝飾品の販売で事業を興して成功し、今は日本語もペラペラ。まだ40歳代くらいですが、景気は良さそうで、金ののべ棒を何本も持っていると言っていましたよ。港区の三田ガーデンヒルズも買ったそうです」
張氏は、本業とは別に、資産運用の手段として日本の不動産を持つのが夢だった。ラブホテルは景気に左右されにくい手堅さもある。仮に年1億円の売り上げがあれば、4000万~5000万円程度が利益になるという。
計6億8000万円の購入代金の支払いについては、「中国本土から香港の銀行を経由し、2回に分けて送金します。3億円ずつなら目立たないから」と言われ、西村氏は実際に入金されるか不安だったそうだが、決済は問題なく完了したという。
パートさんを全員解雇して中国人を雇う
実はこの売買は、厳密に言えば、不動産取引ではなかった。売り買いされたのは、ラブホテルそのものではなく、ラブホテルを所有し、運営している会社だったからである。つまり企業のM&Aだ。
会社を買えば、旅館業、飲食業、風営法の三つの認可が同時に手に入り、会社が所有するラブホテルも付いてくる。不動産の売買ではないため、不動産取得税などの経費がかからない。代表者は替わっても登記は変わらないため、登記費用もかからない。何より目立たないのが良い。
「今、『外国人に不動産を売るな』という声がありますが、こういう方法なら届けを出さなくていいし、表沙汰にならない。彼らはそこをよく分かっているんです」
この手法なら、例えば後継者のいない町工場の会社ごと、M&Aで取得して工場と土地の両方を手に入れることも可能だ。
跡取りがいない町工場はいくらでもある。特に東京の大田区は小さな工場が多い。大田区は「国家戦略特区」指定の第1号で、インバウンド客が降り立つ羽田空港を抱える日本の玄関口だ。今後、大田区を舞台にした「町工場の爆買い」なんてことも起こるかもしれない。
この手法のメリットは他にもある。M&Aで取得した会社は、日本で長年にわたって邦銀と取引してきた。「いずれ銀行からの融資も引き出せるだろう」と、ラブホテルを買った張氏はそこまで見越していた。つまり、今回買ったラブホテルを担保に、次の不動産を買いに行くというわけだ。
西村氏はさらにこう続けた。
