「恒大集団」トップが所有していた豪邸
今回の視察では、偶然にも、恒大集団の社長が所有していたという豪邸も見ることができた。所有者の情報は、現地で初めて明かされた。同じ敷地内に三つのハウスが建ち、3棟とも恒大トップ、許家印氏(シュー・ジアイン)が持っていたそうだ。1棟は前の週に96億円で売れたばかり。本土の中国人が現金で購入したそうだ。残った2棟のうち1棟の価格は、94億3000万円で、広さは139坪、坪単価は6784万円だった。
周囲は3メートルはありそうな擁壁に囲まれ、入り口には鉄のゲートがあり、警備員が常駐していた。擁壁には防犯カメラだけでなく、電流が流れる鉄線も張り巡らされていた。
94億円という価格ではあったが、売り手側に一刻も早く現金化したいという意向があり、3割引きになっていると説明された。
簡氏が耳打ちした。
「多分来週にはもうないです。安いから中国人がすぐ買う。今日見られてラッキーね」
恒大集団の業績悪化の影響が日本にも及んだことを記憶している方は多いだろう。経営不安が伝えられた2021年9月21日の日経平均株価は601円安となり、3万円を下回る2万9898円をつけて「恒大ショック」と言われた。その後、2023年8月18日、恒大集団はニューヨークの連邦破産裁判所に破産法の適用を申請した。負債総額は48兆円で日本の国家予算の4割強に匹敵するという、とんでもない規模だった。
恒大集団は、1996年創業で許氏が一代で築き上げた。中国全土の不動産開発で飛躍的に成長し、売上はピーク時8兆5000億円をあげた。これは三井不動産の売上、2兆6000億円の3倍以上だ。不動産以外にも電気自動車業に進出し、プロサッカーチームも買収するなど、向かうところ敵なしで事業を多角化した。
経営不振は、中国政府が行なった規制が大きな原因となっている。2020年まで投資に次ぐ投資で、事業規模を拡大していた恒大に対し、2020年8月、政府は融資を制限した。血を止めたのだ。
また不動産価格の高騰を抑制するとして、購入者へも規制を課し、都市によっては購入できる部屋は2部屋までとした。中国はこの規制により偽装離婚が増えたほど混乱した。
その頃からだ。香港市場でも不動産の売り圧力が強まり始めた。香港の不動産王にして大富豪、李嘉誠(レイ・カーセン)氏率いる「長江実業集団」や、インターナショナルファイナンスセンターを開発した「恒基兆業地産」の株も下落した。香港のコングロマリット「新世界発展」の業績も急激に悪化した。
――香港政府ならまだしも、中国政府下になったら一体どうなってしまうんだ。調子に乗り過ぎると、必ず政府から何かされる。
そんな不安が広がり始めた。一国二制度だっていとも簡単に破られたじゃないか。香港の富裕層は資産を国外に移し始めた。「逃資」である。

