排外主義者の安倍ぎらい
このように、右派市民は安倍を絶対的に支持していたわけではありません。もちろん10点ではなくとも、中間の5点を超える人が多数ですが、それでも中間点、つまり好きでも嫌いでもないという人がどのタイプでも2割ほどいるという結果です。さらに伝統主義者では約15%、排外主義者ではなんと約25%もの人が安倍に「0」の評価を下しているのです。これは非常に意外な結果のように思われます。
後付けで考えれば、それなりに解釈可能な結果ではあります。安倍がこれまで重視してきた理念や言動を振り返るならば、とにかく左派政党に対しては敵対的な感情を露わにし、「日本を取り戻す」「戦後レジームからの脱却」というような愛国主義的なフレーズを強調してきました。それに比べると、伝統的な家族規範についてはそこまで強烈な執着はなかったように思われます。
また、韓国との関係も常に敵対的ではありません。そもそも祖父の代から韓国の保守派とはむしろきわめて親密な関係を築いていました。銃撃事件の背景となった旧統一教会との付き合いも同様です。
場合によっては「裏切り者」という見方も
そして、排外主義者にとって痛恨事だったと思われるのは、2015年の慰安婦問題に関する日韓合意です。日韓両政府は、安倍首相が「おわびと反省」を表明すること、日本政府が元慰安婦に対して韓国の財団を介した支援を行うことで、この問題が「最終的かつ不可逆的に解決される」との合意を得ました。安倍はなんとかこの問題に終止符を打とうとしたのです。しかし、右派の反発は相当のもので、当時、官邸に抗議のメールが大量に届いたということです(*1)。つまり、排外主義者のなかには安倍は生ぬるいという評価があったのです。場合によっては、裏切り者とさえいえるのかもしれません。
近年の日本における政治的対立のシンボルのようになってきた安倍ですが、左右の市民の評価は非対称的なものだったことがわかりました。左派市民にとっては大嫌いな存在ですが、右派市民にとってもまた、無謬(むびゅう)な存在などでは決してなく、とくに排外主義者や伝統主義者のなかには否定的な評価をする人も少なくなかったのです。「右派市民は安倍のような政治家が好きに決まっている」という見方もまた、憶測の域を超えるものではなかったといえるでしょう。ある意味、右派市民のものの見方を単純化してとらえようとするバイアスがはたらいていなかったか、私自身も他人事ではない思いがしました。
*1 「慰安婦合意、警戒した安倍氏 前夜も念押し『大丈夫か』」朝日新聞、2021年5月21日 https://www.asahi.com/articles/ASP5M4Q0JP4NUTFK00F.html
