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イスラエルのドローン技術者が首相官邸のセキュリティに驚いた理由

座談会・新しい技術と戦争の将来(後編)

2018/08/30
note

日本は軍事テクノロジーとどう付き合うべきか

――自衛隊や日本の防衛に関わる政府機関で、先端技術のことを体系的に研究・開発しているところはあるんですか?

 ドローン、航空機に関して言えば、航空機を造るためのテクノロジーの研究はすごく進んでいます。でも、その「表」はあるんですけど、「裏」がない状態。つまり、モノを造ることができるようになってきたけれども、それを守る方は何もないっていうのはあるかもしれません。

 ただ、「他国で造ったものを日本に入れるのはどうなのか」という懸念もあるので、やはりどうしても自国で開発をしなくてはいけないという側面もあります。やはり、武器の輸出ができないというルールが日本の場合はネックです。

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 今、そういう開発を担っているのは大きなナショナルカンパニーですね。こういう言い方をすると語弊があるかもしれませんけど、本当にガラパゴス。やっぱり日本の中でのビジネスになっている。

伊藤 お隣ではガンガン国際共同開発をしているわけですからね。

 輸出ができないということの大きなデメリットは、国際競争力がなくなるということに他なりません。要するに「井の中の蛙」をドンドン作っている。他国の動向を調べていると、「外」に目を向けることの重要性を痛切に感じます。

 

伊藤 人と人の外交、特に日韓、日中、米朝関係のように現在進行形のものは、国民の視線も集中します。しかし、技術問題への我々の認識としては、個人情報が盗まれたレベルの受け止めしかありません。そこを我々は克服しないと。

――先日、伊藤さんと出した政策提言でも書きましたが、防衛産業政策が日本にはなくて、「防衛産業」を「防衛産業」としてしか捉えていないから、戦争に関わるものは戦車とか戦闘機とか潜水艦とか、「戦争専用のものだ」という認識があります。

 しかし、今回の座談会の中にもあったように、現代の戦争は、民間の最新技術をときには大量生産して、軍民問わずに争うように使ったり転用したりしている現実があります。現状認識としても、装備の面でも、まずはその現実への対応が求められているのではないでしょうか。

 今回の座談会がその一助になればと思っています。

(司会・構成/部谷直亮)

伊藤 弘太郎(いとう・こうたろう)
 2001年中央大学総合政策学部卒業、2004年同大学大学院総合政策研究科博士前期課程修了、2017年同大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
 衆議院議員事務所、公益財団法人日本国際交流センター等での勤務を経て、2015年1月より内閣官房国家安全保障局にて、参事官補佐として韓国を中心とする東アジア地域の政策実務に携わった後、2017年7月よりキヤノングローバル戦略研究所研究員(現職)。2018年4月より淑徳大学コミュニティ政策学部にて兼任講師も務める。
 

林 真吾(はやし・しんご)
 株式会社サイバーディフェンス研究所CHO(最高ハッキング責任者)。90年代からサイバー空間に生息するエインシェント系ハッカー。

南 政樹(みなみ・まさき)

 慶應義塾大学政策・メディア研究科特任助教。
 慶應義塾大学でInternet of Things(IoT)とサイバーフィジカルシステム(CPS)の研究に従事。あらゆるものをデータ化し価値を創造するため技術研究に従事。ドローンは「地上1mmから150mまでの空間を守備範囲とするIoTデバイス」として捉え、当たり前の存在となる「ドローン前提社会」を標榜している。ドローンの新たなプラットフォームとしての可能性と課題を共有し解決策を研究する場として「ドローン社会共創コンソーシアム」を設立した。

 写真=山元茂樹/文藝春秋

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