「大島くん、おれのこと知らなけりゃ、エスキモーだって思う?」
植村さんは茶目っぽく胸を張ってみせた。
「いや全く、そのものですよ。しかしみんな日本人そっくりですね。似てると聞いてはいましだけど、これほどとは……」
目が合うと、例外なくニッと微笑みかけてくる。私もぎこちない笑みを返す。
「彼らにしてみればわれわれだって、言葉のちがうエスキモーとしか見えないよ」
まったく、そうにちがいない。エスキモーも住む地域によって特徴があるが、いままで本の写真やテレビで見たどのエスキモーよりも、彼らは日本的な顔立ちをしていた。
「植村さん、犬橇、どのくらいやってるんですか?」
植村さんはひとりで犬橇を操って、迎えにきてくれたのだった。
「1カ月、かな。意外とむずかしいんだ。見てよ、これ」
指さす頰にまだ新しいミミズばれが一つ、消えかけた小さいものはいくつもあった。ムチを反転させるとき、どうしても自分の顔を打ってしまうという。
生肉の洗礼
白髪まじりのひげをはやした年配の人が、部屋の片隅にある大きなポリバケツを指さして、「ヤパニミュー……」と私たちにすすめるふうだ。
「アザラシの生肉、食おうよ」
植村さんはポケットからナイフをとりだして立っていく。さっそく生肉の洗礼である。ポリバケツには鯨肉に似た黒い肉のかたまりが、無造作につっこんであった。下のほうはまだ凍っているらしく、霜がついている。植村さんを見習ってナイフで肉をそぎ、口にいれた。みんなに見られているという緊張感もあって、味わう余裕などない。ろくろく嚙みもしないでのみ込む。冷たい肉のかたまりが食道をくだっていくのが、妙にゆっくりに感じられる。
ヒョイとさっきのひげの人と目が合った。とっさに、日本で読みかじった「ママット」(旨い)というエスキモーの言葉が出てきた。
「イヒー(そうかい)、イヒヒヒ……」
彼は歯を見せて笑い、満足そうにうなずいた。
