――先の衆院選でもそうですけれども、短い強い言葉を発信するとか、面白いコントみたいな形でショートの動画を流したり、SNSが力を持ってきているのはすごく感じるんですよね。

 力はものすごく持っていると思います。でもある意味、その傾向は怖いことかもしれません。

 私は反戦デモに出たり、反戦フォーク集会に行ったり、仲間同士、政治的な発言をすることが、若い子たちにとっての、ある種の特権や美徳だったような時代に高校時代、大学時代過ごしました。1968~1969年には東大紛争があり、三島由紀夫が割腹自殺した三島事件(1970年)もあった。とにかく学生たちが集まれば、政治の話をしていたし、それがかっこいいと思われる時代だった。

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 そんな時代を生きた人間の一人としては、やっぱり対面で話をすることに郷愁みたいなものがある。まじめなことを議論していても、たいてい意見なんか合わないんですよね。で、相手はものすごい勉強しているなと感じると、恥ずかしくなって、それなのにこちらは負けまいとして、知ったかぶりを続けたりね。議論はかみ合わないし、めちゃくちゃでしたけど。

 そうやって、どこか空疎な議論を交わして、結局、そこから何も生まれなかったかもしれないし、何も残せなかったんだろうと思うけれども、少なくとも私はあの時代に思春期を送ることができて良かった、と思ってます。

 今では、みんながSNSの中でショート動画とか、Xのとても短い数行の強い言葉をかっこよく語った人に対して、わーっと後に従うような傾向がありますね。

提供:アフロ

 アルゴリズムと呼ばれることみたいですけど、たとえばたまたま検索したワードを中心に、それに類似するような他者のコメントが勝手に流れてくるでしょ。最初わからなくて、私と同じ発想をしている人が世の中にこんなに大勢、いるんだと単純に思っていたんですが、そうじゃなくて、自動的に割り振りされて送られてきているだけ。わざと逆の意味をもつワードを検索すると、次はそのワードを中心に情報が入ってくるから、すぐにわかる。そこに気づかないでどっぷりネットの発信にはまってしまうと、例えば政治でいえば、思想も何も関係なく、大勢の人が表現していることに影響を受けて、似たようなことを考えるようになるのでしょうね。それはリスキーだなと思う。

 だから、私は昔に戻って昔の感覚の中で、普遍的なことを表現していくことにエネルギーを注ぎたいと思っています。

――そういったネット発信では表現できない小説の素晴らしさって、どういうところだと思いますか?

小池 なんといっても使われる言葉の選び方、表現、文章すべて、その全体像、ということですね。たとえば短いネット発信では情景描写やそこに至った細かな心理の流れなんかはいらない。誰もそんな細かいところまで読まないでしょう。発信する必要もない。でも、小説では充分に描くことができる。そこが決定的に違います。

 たまたまネットで意見が同じたくさんの人たちのコメントを見続けていると、人間なので気分が良くなります。どことなく安心したりもする。

 私ですらそうなのだから、現代を生きる人たちは、始めたら止まらなくなるんじゃないかと思います。だってはっきり言って、面白いですから。作家で本名を使ってコメントをXで発信している方も多いですし。その人その人の価値観がはっきり伝わってきて、楽しい。

 例えばXでコメント投稿するのは、言いたいことがその場で言えて面白いだろうし、やっちゃおうかな、って思うこともないわけでないんだけど……。でもなんだろうな、私は自分が書く小説の世界の中だけで生きていたいんですね。言いたいことは、死ぬまで自分の作品の中だけで発信していきたい。だから本当に、こっそり見てるだけ(笑)。

(5回目に続く)

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