世界の情勢に翻弄される冒険
――今年で54歳になられますが、肉体的な変化やこれからの目標について教えてください。
田中 自分ではあまり自覚がないんですが、高いところから飛び込んだりする時の空間把握力や動体視力、反射神経は確実に落ちてきていると思います。経験で補える部分も大きいですが、本当に極限的な渓谷に行けるのはもう長くないだろうなとは思っています。
本当は今年6月にイランの険しい渓谷へ行く予定で現地のキャニオニング仲間とも連絡を取っていたんですが、政治状況の影響で行けなくなってしまいました。
昔もコンゴに行く予定が、内戦により中止になりました。探検は世界の情勢にものすごく翻弄されるんです。
今後の目標は、まだ誰にも知られずに隠れているすごい渓谷を見つけ出して、一番乗りすることです。地球にはまだまだ「こんなものが自然によって作られるのか!」と驚くような場所が残っています。未踏の渓谷がある限り、冒険は終わらないですね。
「もうこれを見られたから死んでもいい」という絶景を見たい
――相当な労力の準備と、過酷な思いをされてきました。それでもなお、渓谷に挑み続けるのはなぜでしょうか。
田中 うーん。やっぱり“絶景”があるからです。例えば、セティ・ゴルジュは南北方向に流れている渓谷なんですが、1日にほんの一瞬だけ、太陽の光が何百メートルも深い谷の底まで真っ直ぐに差す時間があるんです。
するとね、ものすごい水量の水しぶきが立っているところに太陽の光が差し込んで、虹がかかる。水しぶきが黄金色に光り輝くんです。
それはもう、すんごい綺麗ですよ。地上では絶対に見られない景色です。そういう瞬間には、「もうこれを見られたなら、死んでええわ」って思うんです。でも、帰ってきてしばらくしたら、「世界のどこかにあれ以上の景色があるかも知れない。だからまた行きたい」ってなるんですけどね。
写真提供=田中彰さん
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

