ソ連崩壊、リーマンショック、トランプ大統領誕生などを次々に予言し、“現代最高の知識人”と称されるフランスの歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏(74)。一方、PayPalやPalantirの共同創業者にして“シリコンバレーのドン”の異名をもち、いち早くトランプ支持を表明してJ・D・ヴァンス副大統領就任にも深く関与し、“影の米大統領”とも評されるピーター・ティール氏(58)。

 世界が注目する2人の“世紀の対談”が3月2日、文藝春秋本社で実現した(司会は会田弘継氏)。本稿ではイラン戦争について言及した部分を紹介する。(通訳・近藤奈香)

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 会田 今日の対談は「世界は終末を迎えているのか」という、とてつもなく大きなテーマですが、ほんの2日前に、まさに「混迷する世界」を示すかのように、米国とイスラエルによるイラン攻撃が始まりました。今後の展開はまったく読めませんが、とりあえず現時点でお二人はどう感じましたか。

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イラン攻撃は「目くらまし(陽動作戦)」

 トッド まず全体像を見る必要があります。意外に思われるかもしれませんが、この戦争はそれほど「大きな戦争」ではない。むしろ、より重大な問題から注意を逸らす一種の「目くらまし(陽動作戦)」だということです。

 この2、3年、私が研究してきたのは、米国のシステムが徐々に崩壊していく過程です。米国は最近、「二つの大きな敗北」を喫しました。

エマニュエル・トッド氏 Ⓒ文藝春秋

 第一の敗北は、ウクライナ戦争での軍事上および兵器生産力におけるロシアに対する敗北です。米国は、ウクライナが必要とする武器を十分に供給できなかった。

 第二の敗北は、それ以上に重要で、貿易・グローバル経済における中国に対する敗北です。トランプ大統領は関税で中国に圧力をかけようとするも、2025年10月末の韓国・釜山での米中首脳会談で大幅に譲歩しました。中国が「レアアースの禁輸」を示唆したからです。精密誘導ミサイル(トマホークやパトリオット)や迎撃ミサイル(THAAD)といった米国の最新兵器に不可欠な資源であるサマリウムの禁輸は今も続いています。

 これが「イラン攻撃」の背後にある「全体の状況」です。トランプは「敗北の大統領」なのです。ウクライナ戦争で米国がロシアに敗北したからこそ、トランプは再選されました。彼の任期中の課題は、「米国の敗北」を何とか政治的に処理することです。その方法の一つが「目くらまし(陽動作戦)」。だからこそ、国際社会でより小さな相手に矛先を向けるわけです。グリーンランド問題で欧州を侮辱したり、ベネズエラのマドゥロ大統領を標的にしたりする。そして今度はイラン――地域大国ですが、中露のような世界大国ではない――への攻撃です。

「目くらまし(陽動作戦)」は、今のところ、一定の成功は収めたと言えるでしょう。イランへの攻撃を目にして、「米国はやはり圧倒的に強い!」と多くの人が感じているようだからです。すると、人々の関心はウクライナ戦争から離れていきます。