「おまえのせいだ」

「皇太子は、家族のこと、家族のこと、と言っていたが、おまえの質問がそうさせたのだ。皇太子が御所に参内するのは、決して家庭内のことなんかではない。天皇としての在り方を学ぶ大事な場なんだ。それをないがしろにする息子と嫁が悪い。家族とかプライベートなどという言葉を言わせたのはおまえのせいだ」

 昭和天皇が在位中、当時の明仁皇太子夫妻が週に1回天皇の元を訪問するのが定例化されていたことはよく知られている。この幹部の念頭にも、そうした前例があったはずで、言うことは分からないではない。天皇となる者が先代と多くの時間を共にして、体験を聞き取り、わが身に吸収していくことは、とてつもなく大きなことだろう。

 だが、皇太子はこのとき「家族の内の事柄」「プライベートな事柄」と言っただけであり、決して、ことを軽んじたというわけではない。

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 後に詳しく述べるが、このころ、天皇夫妻と皇太子一家との間に重大な溝とわだかまりがあるのではないかということは関係者の間で共通認識となっていた。その状態で「参内が少ない」と側近がなじり、皇太子の自覚が足りないと非難するのは、皇太子の側だけを一方的に悪者にしてしまう行為なのではないか。

 客観的に考えて、溝を飛び越えて皇太子一家が御所に足を運ぶのは、きわめて気の重いことだっただろう。だが、「行きたくない」と言うわけにもいかない。

 明仁天皇の「うち解けて話をするようになることを楽しみに」という言葉も、裏を返せば愛子内親王が自分たちにうち解けていないことを告白しており、両家を包んでいた重い空気感を示している。今の時代に「息子夫婦が毎週一度実家に来る」ことを要求するのはあまりに酷すぎる、とする識者の声もあった。