若店主がお店を継いだ“まさかのきっかけ”
2人で思う存分そばを味わった。セルフで食器を片付けて、ウエスでテーブルを拭いて店を出た。放心状態になって丸椅子に座っていると、閉店で暖簾を下げに若店主の平山英之さんが出てきたので、少しだけ質問してみた。
先代の修吉さんがこの地でそば屋を始めたのは昭和50(1975)年。当時は活気もあって繁盛していた。いわゆる町そば屋で、メニューがたくさんあった。ラーメンも定食もあったそうだ。
ところが、先代と奥さんが同時に体調を崩し長期入院が必要となり、令和4(2022)年に一旦店を閉めることになってしまった。それまで英之さんは別の仕事をしており、全く店の手伝いはしていなかったそうだ。
さらにトラブルが続いた。英之さんが足に怪我を負って、しばらく寝たきりになってしまい、今までの仕事を続けられなくなった。これからどうするのかといよいよ途方に暮れていた時、英之さんは熟考して、そば屋を引き継ぐ決心をしたというのだ。
体調が回復してから、馬車馬のように活動を開始した。有名老舗そば店に修業に行き、注目店を食べ歩き、調理の腕と味を磨いていった。同時に、どうすれば高いレベルの味を維持したまま、少ない陣容で店を回せるかを研究し試行錯誤した。そうするうちに約2年間が過ぎていたという。
そして今のセルフスタイルを考案し、令和6(2024)年10月12日に、新たな店として「そば処さつき」を再スタートしたというわけである。
蕎麦粉は国産だが更科粉でなく香りの強い部分を粗びきで使用している。細打ちではなく中太麺にしてコシをよくしている。セルフでも伸びにくいわけである。
通常は若店主と先代の2人、もしくはスタッフ1名の3人で切り盛りしている。時にはワンオペで対応することもあるという。最少の人数でうまく回していけることが重要だと英之さんはいう。
そして実際にスタートすると、「以前からの常連さんを含め、お客さんは店側の方針を理解してくれて、セルフで対応してくれるようになって、本当に感謝している」と英之さんはいう。
店を出てきた年配のご夫婦に聞くと「ここは車で近いし、本当にうまいので助かっている」と笑顔で話してくれた。近隣に店も少なく、貴重なリピート店となっているのだとか。とにかく利用者は年配者が多く、券売機の使い方もセルフシステムも十分に理解し、女性でも並400gをペロッと食べている。うまいそばを近所で毎週のように食べたい。そんな切実で身近な想いに「そば処さつき」は十分に応えているわけである。
