スーパーが「捨てた」ものを、強みに変えた売り場
角上魚類の特長は、何と言っても売り場の広さだ。大手GMS(総合スーパー)の鮮魚売り場の横幅は、大抵100~120尺(約30~36メートル)ほど。これに比べ、同社はその約4倍にあたる400尺前後(約120メートル)の棚を設けている。
陳列棚には、丸魚や店内加工の商品だけで、600種類前後が並んでいる。また、普通のスーパーマーケット(以下、スーパー)では見たことのない魚も、当たり前に売り場へ並んでいるのだ。
「コアなお客様は、初めて目にする魚があるとすぐ買っていかれるんです。『何これ、見たことないんだけど』って」
常務取締役の吉田努さん(商品企画本部 本部長)は、うれしそうに語る。確かに、筆者が店を訪れた際も、特に賑わっていたのは丸魚と刺身のコーナーだった。反対に、馴染みのある干物や冷凍品のワゴンで立ち止まっている人は、ほとんど見かけなかった。
広い売り場があれば、豊富な品揃えを実現できる。一般的なスーパーが合理化を求めて「売れる分だけ、管理できる量だけ」と棚を縮小してきた一方、同社は逆張りの戦略で「ここに来れば食べたい魚が見つかる」という期待感を醸成しているのだろう。事実、普段の買い物で銀鮭の切り身や鯵の干物ばかりを見ている筆者は、見たことのない魚介類を前に目移りし、店内を3周はしたと思う。
この魅力的な売り場を支えているのが、同社の目玉である「対面販売」だ。丸魚のコーナーにはカウンター越しにスタッフが立ち、客の要望に応じてその場で魚を捌いてくれる。三枚おろしや切り身、ぶつ切り。希望すれば、アラも持ち帰れる。もちろん、加工費用は無料だ。実際に、家族連れの来店客が「半身は刺身で。残りの半身は汁物にしたいから、ぶつ切りで」と細かく希望を伝えていた。
この「対面販売」を維持するには、魚を捌くための広いバックヤードが必要になる。昨今、多くのスーパーでは売り場面積の拡大や人件費の削減を目的に、加工作業の外注化を進めている。だが、同社では売り場とバックヤードをほぼ同等の面積で確保し、自社加工を続けている。一見すると非合理的に見える選択だが、その場で調理されるシズル感が、顧客の体験価値を高めているのは想像に難くない。
また、各店舗には「親切係」と呼ばれる黄色い帽子を被ったスタッフがおり、旬の魚の食べ方や調理方法を教えてくれる。ただ売るのではなく、「美味しく食べてもらうところまで」提案するのが、角上魚類のスタイルだ。

