「女が男を立てるのは当たり前です」と諭されたが…

 終業後、雅、里以と帰宅する途中、里以が「大関さんは、もう結婚はしないのですか。今なら将来有望なドクターを選り取り見取りではありませんか。うらやましいくらいです」と言うと、「私は結婚相手を見つけるために看護婦になったのではありません」とにべもない。

『風、薫る』公式Instagramより

 すると雅が里以に「そうですよ、結婚しなくても生きていけるのが看護婦です」と言ってから、今度は和に向き直り「医師たちと必要以上に親しくなることはありませんが、看病婦取締にとって彼らとの連携は必須です。あまり素気ない態度を取っていると、取締の任を解かれますよ」と真剣な顔で忠告する。

「では、仕事とは関係のない話に乗ったり、食事の誘いを受けたりしなければならないのですか?」

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「そうは言ってません。もう少し医師を立てた方が無難だと言っているのです」

 雅と和が無言のまま鋭い視線を交わす。

「大関さん。鈴木さんのおっしゃるとおりですよ。病院の仕事に限らず、女が男を立てるのは当たり前です。そうでないと世の中はうまくまわりません」

「好みの男性? そうですね…」大関和が語った“最低条件”

 里以が肩を持ってくれたにもかかわらず、雅は余計に不機嫌な表情になる。里以は頓着せずに「そもそも大関さんは、どんな男性が好みなのですか」と結婚の話題に戻る。

 当時、読書が好きな若い女性たちの間で、欧米の恋愛小説が人気を博していた。翻訳書は滅多に手に入らなかったが、里以は原書も読めたので、休みの日には恋愛小説に没頭し、自分もいつか恋愛結婚がしたいと夢見ていた。しかし武家の教育を受け、その慣習のもとに嫁いだ和には、恋愛という概念自体がなかった。

「好みの男性? そうですね。信仰の話ができることが最低条件でしょうか」

『風、薫る』公式Instagramより

 和が馬鹿正直に答えると、雅がため息まじりに「信仰の話は桜井女学校の関係者でとどめておいた方がいいです。ほとんどの日本人にとってキリスト教はいまだに異教、いえ邪教なのですよ。そんなに信仰の話がしたければ、植村牧師のところへお行きなさい」と言う。

 鹿鳴館時代が終わり、国粋主義的な風潮が高まるなかで、世間ではキリスト教に対する風当たりが増していた。医師たちの中には、和がクリスチャンだというだけで、毛嫌いする者もいた。

 それから日を置かずして、雅の心配が的中する出来事が起こる。

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