酒井さんは農家と協力して耕作放棄地も活用しながら、わらを栽培している。中山間地域は小さな田んぼが多く、機械化が難しいため儲からない。結果、耕作放棄地が増えるわけだ。

しかし、酒井さんはわらを米の概算価格と同じ値段で買い取っている。さらに、1回目の稲刈りを行った後に、2回目の稲が自然に生えてくる「再生2期作」も行う。1つの田んぼで2回の収益が見込めるため、小さな田んぼでも儲かる仕組みだ。

農家は儲かり、わらむは必要なわらを確保でき、放置されて荒れた田んぼが蘇る。まさに、win-winのビジネスモデルだ。稲刈りと乾燥作業はわらむが行うため、農家にとっては少ない手間で収入を上げられる。

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現在、年間20トンを確保しているが、将来的には200トンに増やすことが目標だ。さらに、酒井さんは「この地域で100億円の産業をつくっていきたい」と真っ直ぐな目で語った。

不登校の子にわら細工を教える学校を設立

酒井さんは2024年に一般社団法人「わレらの学校」の設立にかかわり、不登校や引きこもりの子どもたちにわら細工を教えている。

なぜ子どもの支援が始まったのかを酒井さんに尋ねると、「PTAがきっかけで……」というから驚いた。睡眠を削って土俵をつくっていた人が、その合間にPTA活動もしていたというのだ。「頼まれると断れないんですよ」と酒井さんは照れくさそうに笑う。保護者や教員に「家にいてもわら細工ならできるのでは」と相談されたことから、子どもたちの支援が始まった。

「僕は引きこもりの子って無気力なのかなと思っていたんですが、対人関係が苦手なだけでやる気はあるんですよね。わら細工を教えると、一生懸命に練習するんです。不登校のままだと将来働けないかもしれない不安がある。でも、わら細工が仕事になるかもって希望を持ってやってるんで、すごくいいものをつくるんですよ」

わら細工は、材料さえあれば家でも仕事ができる。実際、職人のなかにも月1度の納品の時しか会社に来ない人もいるそうだ。その際、必要なわらを持ち帰り、また家で作業をするので、コミュニケーションが苦手な人でも自分のペースで働ける。