なぜ現代のIT企業のリーダーたちは、スーツではなくパーカーなどのカジュアルなスタイルを選ぶのか? 平芳裕子氏の著書『何がダサいを決めるのか』(ポプラ社)は服の歴史や社会背景、そしてそれに伴った「カッコいい」「ダサい」といった人々の感性を読み解き、ファッションの常識をアップデートする一冊だ。

 ここでは、スティーブ・ジョブズが「黒いタートルネックにジーンズ」を貫いたエピソードを踏まえながら、ビジネスにおけるカジュアルな服装が持つ意味について述べた一節を抜粋、一部編集して紹介する。(全2回の2回目)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

日本を代表するデザイナーが手掛けた黒いトップス

 スティーブ・ジョブズのスタイルは、黒のタートルネックとジーンズでした。タートルネックは黒のシンプルなトップスでありつつも、実は三宅一生のデザインです。三宅一生は、日本の代表するファッションデザイナーの一人であり、そのデザインは着物からの着想も多くありました。

日本のデザイナー・故三宅一生による「イッセイミヤケ」のタートルネックとリーバイスのジーンズを“制服”にしていたスティーブ・ジョブズ(2011年没) ©AFP=時事

 三宅一生のデザイン思想の根幹には、自由にカスタマイズできる量産品という考えがありました。私たちが着ている服は、大量生産の既製服です。それらは、自分の体形にあわせて特別につくられたものではありません。私たちは、自分の体形に近いものを既製服のなかから選んで着ますし、既製服であるために、自分が選んだ服はどこかで別の誰かが着ているものでもあります。

 しかしたとえ既製服であっても、着る人の体形や好みに応じて、服が形を変えたり、デザインを変えたりするならば、私たちはより広い選択肢をもつことになりますし、服を着ることがより楽しくなるでしょう。量産型のファッションにおいて着る人の選択肢を増やすこと、個性と遊びを重視すること、それが、イッセイミヤケというファッションブランドであり、プリーツプリーズやA-POCのシリーズです。

デザイナーの三宅一生氏(1938年~2022年) ©文藝春秋

洗練されつつも親しみやすいデザイン

 そのような三宅一生の服にジョブズが関心を持ったのは、偶然ではないと思うのです。ジョブズが開発した製品は、それこそ大量生産のコンピュータやデバイスです。しかし難解な説明を要しない直感的な操作性、洗練されつつも親しみやすいデザインで、コンピュータをより身近なものへ、より多くの人々が使える道具として普及させていきました。

 そして私たちは今、それを使って仕事をしたり、ゲームをしたり、動画を見たり、創作をしたりします。大量生産のパソコンやデバイスが人間の生活を変えましたが、それらを利用して私たちは、日々自分なりの創造的な世界を生きています。

 ファッションデザインとインターネットテクノロジーは一見関係ないもの同士のように思われます。しかし20世紀末から21世紀にかけて、ファッションやテクノロジーをデザインによっていかに民主化し、人々の道具となって新しい世界に貢献していくのか。それを追求し実現した三宅一生とスティーブ・ジョブズの仕事には、相通じるものがあるように思います。