「モーニングコート」を夜に着て撮影するワケ
対して、日本の閣僚たちが赤い絨毯敷のうえでモーニングコートを着て整列している姿は、非常に堅苦しく見えます。事実、「モーニング」コートを夜に着て撮影しているのですから、かなり形骸的と言えるでしょう。
「モーニングコート」とはその名の通り、西洋ではもともとは午前中に着るものです。日中に乗馬をする上流階級が着用した衣服でした。日中の正装としては、かつては「フロックコート」の着用が求められました。1871(明治4)年にサンフランシスコで写真を撮影した岩倉使節団のメンバーが着ているのも、フロックコートです。彼らはちゃんと、日中用の服に身を包んでいるのです。
ところが19世紀後半から、徐々に男性服の簡略化が進み、フロックコートが廃れていきます。人気の高まっていたモーニングコートが、次第に日中の正装として用いられるようになりました。
ではなぜ、日本の閣僚たちはモーニングコートを夜に着ているのでしょうか。それは、国会で指名された内閣総理大臣を天皇が任命する首相親任式および閣僚認証式が、皇居で行われるからです。宮中のしきたりでは、これらの儀式においてはモーニングコートの着用が求められます。
式の後、首相は官邸に戻って記者会見を行ったり、初閣議を開催したりとさまざまなスケジュールをこなすために、新内閣の写真撮影はしばしば夜遅くに行われることになります。撮影は深夜であっても、首相や閣僚たちは「モーニング」コートを着たままとなってしまいます。
宮中での儀式にはふさわしい装いですが、首相官邸で夜遅くにモーニングコートを着ている内閣は、西洋の人々にとっては不思議な姿に見えることでしょう。西洋では時間や場面に則した装いが重視されるからです。ところが日本の場合には、撮影の時間や官邸の場に適した装いというよりも、宮中での儀式を経て正式に発足した内閣であることを示すことが優先されると言えます。
