一方で、東アジア系コミュニティ出身の女性・コンスタンス(オークワフィナ)には、特有のステレオタイプ的な描写はみられない。オークワフィナは中国系アメリカ人の父と、韓国系アメリカ人の母を持つニューヨーク出身の俳優・ラッパーで、『オーシャンズ8』『クレイジー・リッチ!』という2つのハリウッド大作で重要な役を演じた。しかもこの2作の公開は同じ2018年で、彼女のブレイクは「アジア系ハリウッド俳優の躍進」としても注目を浴びた。彼女は当時のインタビューで、このように語っている。
「今の私にできる唯一のことは、アジア系アメリカ人コミュニティを正しく表現すること、そして……私たちの描かれ方の変化にプラスにならないような、嘲笑するようなことは一切しないこと」
このオークワフィーナはラッパーでもあることから映画の中のセリフ回しも黒人の話し方を真似ている、文化の盗用だと批判され、映画における人種/民族文化の表現の難しさを浮き彫りにした。
“アジア系優等生”の悩み
いずれにせよ、『プラダを着た悪魔2』で問題視されたアジア系に対する画一的なイメージに悩まされる在米アジア系の若者は多い。それを見事に描写したのが 『ベター・ラック・トゥモロー』(2002年、日本未公開)だった。
これは映画『ワイルド・スピード』シリーズ5作で監督を務めた台湾出身のジャスティン・リン監督のデビュー作。西海岸の高校を舞台に、米名門大学進学を目指す優秀な東アジア系の少年たちが「優等生であること」を強いられるフラストレーションから思わぬ暴走を始めてしまう物語だ。
同作が公開されたのは今から24年前。自身もアジア系のリン監督は、主人公の少年たちが「ガリ勉・成績優秀」で「クールじゃない」というアジア系へのステレオタイプに苦しむ姿を描いた。2026年の今、『プラダ~』はアジア系のアシスタント、ジン・チャオ(ヘレン・J・シェン)に「自分がいかに優秀な成績で大学を卒業したか」をまくしたてるステレオタイプをコミカルに演じさせた。ハリウッドにおけるステレオタイプは、これほどに根が深いのだと言える。
ちなみに、ジャスティン・リン監督と、少年たちの一人、ハン・ルーを演じた韓国系俳優サン・カンは4年後に『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』で再会している。リン監督はサン・カンの役名を『ベター・ラック・トゥモロー』での役名と同じハン・ルーとし、性格も『ベター~』と同じくクールでニヒルとしている。
東京を舞台とした『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』での日本の描写について、日本人からは「リアルじゃない」という声も出たが、以後、サン・カンは世界的大ヒットとなった『ワイルド・スピード』シリーズに20年間にわたって7本出演し、今も根強い人気を維持している。

