来週も、再来週も、その次も、きっと同様のやりとりが続く。細かく言えば、言葉の調子や声の抑揚に微妙な差異はあるが、会話の内容に変化はない。RPGゲームに登場する決められたセリフだけを繰り返す“村人”のようだ。

 井上さんの幻聴や妄想は長年悪化していない。性格も穏やかで、病棟のレクリエーションにも参加し、日がな一日テレビを眺めてすごす。

母を殴って入院

 しかし、25年前の入院したてのころはまるで違ったという。当時すでに統合失調症と診断されて治療中ではあったが、「自分はもう治った」と突然思い立ち、薬を自分の判断で中断した。

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 次第に独り言や空笑が増えていき、「おまえを狙っている。殺されるぞ」という幻聴から母親に敵意を向け、激しい殴打で病院送りにする傷害事件を起こす。その結果、警察署に保護され、当院に措置入院となる。

 不幸なことに母親はこのときの暴力で脳に障害が残ることとなった。

 そんな井上さんは薬の効果もあり、ゲームのモブキャラのように穏やかになった。妄想の影響もなく日常生活を送れるので、一見ふつうの中年男性に見える。

 では、なぜ退院しないのか?