だが、裁判所はカワムラの法廷での弁明を冷徹な事実の積み重ねによって完全に退けた。

 まず、被害者であるリンの立場である。彼女は団体観光ツアーで来日しており、翌日には果樹園での果物狩りや東京への移動という予定が控えていた。そのような立場の外国人旅行者が、深夜に初対面の男の誘いに応じて、家族やツアー仲間に一切の連絡も取らずに長時間のドライブに出かけるなどということは、常識に照らして極めて不自然であると断じた。

写真はイメージ ©AFLO

 遺体に緊縛の痕跡がなかったという弁護側の主張に対しても、司法解剖を行った医師の証言や警察による緊縛実験の結果を引き合いに出し、「ビニールテープで縛った場合、巻き方や強さによっては痕跡が残らない、あるいは数時間で消失することは十分にあり得る」として退けた。コンビニで逃げ出さなかった理由についても、「異国の地でナイフで脅され、長時間連れ回されて心身ともに疲弊しきっていた状況下では、逃走を諦めていても不自然ではない」と判断した。

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 何より、逮捕直後の捜査段階におけるカワムラの供述が、被害者の携帯電話が焼け焦げて発見された事実や、トランクの開閉に関する再現結果など、客観的な証拠と符合しており、極めて具体的で迫真性に富んでいたことが重視された。法廷での「合意があった」という主張は、自らの刑事責任を軽減するための表面的な言い逃れに過ぎないと一蹴されたのである。

最愛の娘を理不尽に奪われた“父親の言葉”

「娘は死んでも死にきれない」

 初公判の傍聴に訪れたリンの父親は、事実を捻じ曲げようとするカワムラの態度を前に、そう絞り出すように語っていた。法廷で読み上げられた遺族の陳述には、最愛の娘を理不尽に奪われた深い絶望と、被告人に対する極刑を望む峻烈な処罰感情が綴られていた。

「自分の体の肉が切り取られてしまうほど悲しいです」

母親のその言葉は、娘を失った喪失感の深さを物語っている。

 平成19年(2007年)4月26日。甲府地方裁判所で裁判長は主文を言い渡した。

「被告人を無期懲役に処する」

 裁判所は、カワムラの犯行動機を「自らの性的欲求を満足させたいという非常に短絡的かつ自分勝手なもの」であり、殺害についても「口封じのための身勝手極まりない動機で、酌量の余地は一片もない」と厳しく断罪した。遺棄の際のウイスキーやビニール袋の行為についても「死者に対する畏敬の念は全くうかがえない。発見された姿は哀れであり、あまりに無惨である」と非難した。

 計画的な殺人ではなかったことや自首に近い形で出頭したことなどを考慮して死刑は回避されたが、「被告人に対しては、生涯かけて自己の犯罪を償わせるのが相当」として、無期懲役という判断が下されたのである。

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