和食の定番「肉じゃが」は、いつから存在していたのか。レシピの歴史をひもとくと、文献上の初出は1964年=東京オリンピックの年である。当時の肉じゃがはどのように作っていたのか? 人気料理研究家・樋口直哉氏の新著『日本の定番料理10の謎 ポテトサラダはなぜ「おかず」になったのか』(NHK出版)から一部抜粋し、お届けする。

「昭和の肉じゃが」はどのように作られていたのか ©NOBU/イメージマート

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レシピは「料理の成り立ち」を知るヒントになる

 多くの人はレシピを〈料理をするためのガイド〉くらいにしか認識していませんが、レシピとはもともとは医師から薬剤師へ出された、薬の準備をするための指示=処方箋を意味する言葉で、18世紀くらいから料理用語として使われだしました。

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 それまで口伝でしか残っていなかった料理をレシピとして書き記すことにより、多くの人に共有される知となります。その意味ではレシピは音楽における楽譜のようなもの。指揮者は楽譜を読み込むことで、音楽を理解しますが、料理もまたレシピを読むことによってしか、それについて知ることはできません。レシピは食材や料理法を伝えるだけではなく、それを作る人の価値観までも含んでいるからです。

 料理に慣れた熟練者はレシピを読むだけで味を想像することができますし、工程の行間を読み取ることで、作者が追求した食材の組み合わせや懸念点など料理の裏にある思いを感じることができます。そこにレシピを読む楽しみがあるのです。

 歴史的にもレシピは価値を持ちます。その料理がいつから存在したのか。実際のところはわかりませんが、レシピの初出であれば調べることができるからです。

 文献上、確認できる肉じゃがのレシピの初出の1つは1964(昭和39)年の『きょうの料理』掲載のものとされます。東京オリンピックの年に紹介された肉じゃがは、牛細切れ肉(または並肉)を使い、新じゃがいもと新玉ねぎ、新にんじんを油で炒めつつ、調味料で味付けしたものでした。