父の仕事がうまくいかず幼少期から生活保護を受けていた、20代女性の山本智美さん。暴力などに悩んだ母は中3の時に父と離婚するも時折会い、父は暴力をふるい続けてきたという。

 そんな父から、家族はどうやって逃げて行ったのか。貧困家庭の子どもとその支援に焦点を当てた書籍『大人は気づいてくれない 貧困脱出への伴走型支援』(岩波書店)から、埼玉県の学習支援事業「アスポート」による山本家の支援エピソード一部抜粋してお届けする。なお本文中の人名は全て仮名。

画像はイメージ ©yamasan/イメージマート

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ある日、大声で目を覚ますと父と母が……

 ある夜、大声で目を覚ますと、すぐ脇の布団で父が母に馬乗りになり、壁には包丁が突き刺さっていた。智美さんは怖くて、頭から布団をかぶった。

 年が明けると事件が起きた。父の部屋を訪ねた母は硬い物で頭や体を殴られたのだった。父は「警察に行くなら行け」と叫んだ。

 慌ててその場をすぐ逃げ去ったという京子さんは「思いっきり殴られて、ものすごく痛かった」と、つらそうに訴えた。暴力を振るう父、離婚後も拒めない母、知的障害のある兄、そしてヤングケアラーの智美さん。山本家は典型的な「ハイリスク家庭」だった。

 夫に大けがを負わされた母の山本京子さんは、そのまま警察署に駆け込んだ。顔や脚に大きなあざができていた。

 警官が自宅に向かい、中3の智美さんと、兄弟も一緒に警察に行くことになった。そこから母と子は「どこかに逃げよう」と知恵を絞った。智美さんが記憶をたどる。

「女性を保護するシェルターも考えたけど、兄と弟は男だから入れない。バラバラになるのは嫌で、おばあちゃんの所に行きました」

 4人きょうだいの長男は独立しており、母は子ども3人を連れて、実家に転がり込んだ。父は祖母のところにも電話してきてすごんだが、すぐに警察から事情聴取を受けて、逮捕された。ただ、高校受験の直前でもあり、母は智美さんにこの経緯を話さなかった。

 智美さんは「父が逮捕されていたことは、かなり後になって母に聞くまで知りませんでした」と話す。逮捕で当面の危機が去り、4人は一度、自宅に戻った。