「父が逮捕されているうちに」母と子どもたちは逃走を試みた

 2月下旬、支援員の田中正樹さんは智美さんに渡す合格祈願のお守りを持って、いつものように家庭訪問をした。玄関先で智美さんに渡したが、京子さんは事情を明かさず、田中さんはこの間の異変を察知できなかった。智美さんも田中さんも、京子さんから「お父さんは入院した」と聞かされていたのだった。

 山本家はアスポート内では有名な存在だった。2つ上の兄は軽い知的障害があり、手間がかかった。無料塾に行く途中で電車を乗り越して行方不明になり、そのたびに田中さんや父が探し回った。そんな山本家の中で、智美さんは勉強もでき、大人と話が通じて、「手のかからない子」だった。

 月に一度は家庭訪問をしていただけに、田中さんは自分が家庭の内情をつかんでいないとは、思いもしなかった。実は、田中さんが受験に向けてお守りを渡しに訪れた時、一家は引っ越し準備の真っ最中だった。

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 京子さんは「お父さんが捕まっている間に」と、慌てて転居先のアパートを探していた。高校受験が迫り、不安を抱えながらも智美さんは毎週、無料塾に通って勉強した。「参考書や問題集なんか高くて買えないから、もらえて本当に助かった」

 母に「私立は無理」と言われ、県立高しか受けられない。兄もそうだった。落ちたら二次募集で受け直すしかない。

「成績は悪くなかったけど、勉強が手に付かず、やっぱり不安でした」

 3月、合格発表を迎えた。無事に合格し、智美さんは晴れて高校生になることが決まった。田中さんが次に山本家を訪れたのは、発表直後の3月半ば。合格の報告は受けていたから、お祝いのつもりだった。山本家の部屋は、集合住宅の1階にあった。部屋の様子が外から分かったが、明らかにいつもと違った。

支援機関「アスポート」のフォローなどもあって、智美さんは無事に高校に合格 ©graphica/イメージマート

 カーテンが取り払われ、テーブルやイスなどの家財道具も消えていた。もぬけの殻の家だった。

 ただ、田中さんは驚きはしたものの、夫婦が離婚し、何か事情がある様子は分かっていたから「何が起きたのかは分かりませんでしたが、緊急避難で逃げたのかな、とは感じました」と振り返った。

 もぬけの殻の一家はどうなっていたのか。