智美さんを追い込んだ「教師の言葉」とは?
担任だった保健体育担当の男性教師と校庭で話していると、友達の前で「あなたは今、引っ越して、近くの町に住んでいるんだよね」と言われたのだった。
智美さんは「それを言われた瞬間、固まりました。空気が止まった感じでした。友達には意味不明だったでしょうが、先生は私が友達に事情を伝えていると思ったのかな……」と振り返る。
教師にとっては「ささいな事実」でも、智美さんには「大きな秘密」だった。そんな切迫した微妙な状況が伝わらなかったのだろうか。
智美さんは「中学時代はみんなと一緒だと思われたいから、込み入った家族の事情を友達に話せるわけがないのに……」と嘆いた。
中学時代の智美さんは、親友が暮らす一軒家を訪れるたび、実家との差を感じていた。ピアノがあり、居間にはドレスで着飾った親友の発表会の写真。保育士を夢見る智美さんも必要性を感じて、ピアノを習いたかったが、経済的に難しかった。
親友一家の豪華な夕食にも驚く。
「おかずがたくさんあった。うちは『おなかすいた』と言うと、そこから、母が少ない食材を探し始めて、やっとパスタやカレーライスが出てくる。付け合わせの野菜なんか、ありませんよ。食に関心が薄いから、私も兄弟も体が細いんです」
「中3が一番大変だった」と話す智美さんの記憶の中でも、3学期は混迷を極めていた。高校合格は、唯一と言っていいほど、明るい知らせだった。父のDVや厳しい家庭環境という秘密を抱えていた智美さん。周囲からは「明るい子」とみられていた。
「明るくしないと生きていけない。その方が楽に過ごしやすいから」
引っ越しでようやく落ち着くかと思われた山本家に、実はこの時さらに大きな危機が迫っていた。