右翼とは何か…
日本皇民党は、ポスト中曽根の最有力で自民党幹事長の竹下登に対し、皮肉たっぷりに褒めたたえることにより、逆にイメージダウンを狙った巧妙な、いわゆる、「ほめ殺し」作戦を展開した。
車体の横っ腹には、「竹下さんを総理にしよう」「大道一直線政界刷新 竹下登新総裁擁立」「誠実清廉の人 竹下登」などと大書きされていた。
四国高松に居を構える「日本皇民党」総裁稲本虎翁は、元三代目山口組白神組出身であった。1972年に白神組を去り、右翼団体を結成した。日本皇民党の命名は、関西の重鎮右翼である民論社の畑時夫によるものであった。活動は、関西が中心であった。が、竹下への「ほめ殺し」作戦を展開した1987年からは、全国展開を開始していた。
行動隊長の大島竜珉が、『実録・安藤組解散 さらなる戦い』(徳間文庫)の取材でわたしに語ったところによると、大島は、当初右翼とは何かもわからない。さまざまな人に聞いてまわった。
「どんな本を読めば、右翼というのがわかるのですか」
しかし、誰からも、「これを読めば……」と明確な答えは返ってこなかった。
むしろ、困惑した表情を浮かべた。
〈そうか、「これを一冊読めば、あなたも今日から右翼です」なんて本はないのだな〉
大島が稲本から紹介されたのは、右翼の本とはまるでちがった。
「『水平思考の世界』という本を読みなさい」
大島は、稲本にすすめられるまま、読んでみた。
『水平思考の世界』(邦訳・きこ書房)は、心理学者であるエドワード・デボノが書いたもので、既成の枠にとらわれずに視点をさまざまに変えて問題解決をはかる思考方法である。
日本皇民党・稲本総裁の「不条理への怒り」
稲本総裁には、一つの物事をさまざまな角度で見る柔軟性がある。その象徴が、「ほめ殺し」であった。誰かを責める場合、だいたいの右翼は、責める相手がどのようにひどいのかを並べたてる。正攻法で責める。しかし、「ほめ殺し」は、『水平思考の世界』に書いてあるように、さまざまな角度から見た末に考えた方法かもしれない。
その発想に従って相手を責めるために、計画はない。ぶっつけ本番が多かった。
稲本の不条理に対する怒りは、竹下登に向けられた。
田中角栄がどのような人物であろうと、竹下にとっては、自分を政治家として育て上げてくれた恩人にちがいない。竹下派を旗揚げすることは、政界での父親ともいうべき田中角栄を裏切ることである。ましてや、田中が育てた政治家たちを引き連れて出ていった。まさに家財道具までもかっさらう、泥棒のような所業である。
〈このような人物が、日本の指導者となること自体が、道に外れている〉
そのように稲本は考えていたのだろうと、大島は思っている。
