そのうえ日本皇民党だけでなく、ほかの右翼からも攻撃を受けた。ニセ爆弾が事務所に送られてきたり、議員会館に短銃と実弾が送りつけられたりした。
竹下は、神経性の円形脱毛症に悩まされた。誰より打たれ強く、したたかな竹下が円形脱毛症に悩まされたのだから、よほどこたえていたのである。
「褒めること」は摘発の対象にならない
赤坂プリンスホテル(のちのグランドプリンスホテル赤坂)の一室に設けられた竹下の選挙対策本部に、朝から晩まで非難の電話がかかってきた。
「竹下は、右翼の支援を受けてまで、総理になりたいのか!」
「竹下さんの背後に、右翼が控えているとは知らなかった。もう、竹下さんに期待はできない」
「竹下さんに、幻滅を感じた」
竹下側は日本皇民党の実態を探ると同時に、警視庁の鎌倉節警視総監に相談した。
が、鎌倉は苦しげに弁解した。
「皇民党が誹謗しているのなら、中止命令や摘発もできますが……。褒めることは、摘発の対象になりません」
竹下の側近や竹下派の複数の政治家は、手を尽くして稲本説得に奔走した。
右翼やヤクザからの説得に稲本は…
その間の7月4日、竹下登は、竹下派(経世会、のちの平成研究会)を結成した。田中派は、分裂状態におちいった。
それと前後して、竹下派議員が次々と稲本総裁との接触をはかった。
地元の右翼や、ヤクザの親分など、日本皇民党に少しでも面識がある人物に仲介を頼んだ。
大物右翼も、説得のために稲本のもとに顔を見せた。
「3億円までなら、出す用意がある」
大物右翼は、含みをもった話を切り出した。が、稲本は、丁重に断った。
「金の問題じゃない」
右翼からも、ほかのヤクザからもそれとなく稲本への接触があった。
稲本は、ヤクザに対しては説明した。
「日本皇民党は、ヤクザではありません。あなた方の米びつに、手を突っこむようなことはしていません」
右翼には、逆に説得した。
「本来なら、田中を裏切った竹下攻撃に協力してくれるのが筋じゃないですか」
さらに、兄弟分に対してもいった。
「兄弟なら、力になってくれるのが筋でしょう。ほかの者が稲本説得に行くと聞けば、やめさせるのが兄弟じゃないですか」
