クリムゾンクローバーで地力を回復

 そこで登場するのがクリムゾンクローバーだ。マメ科なので根粒菌が窒素を取り込むなどし、すき込めば地力回復に役立つ。避難前に取り組んだ経験を持つ1軒の農家が2018年に作付けをした。これに着目した村役場が翌年、希望する農家へ種の配布を始めた。年によって違いはあるが、今期は11軒が種をまいた。

 松本さんも試したところ、「2年で効果が現れました。あくまでも農業のためで、観光など眼中にありませんでした」と話す。ただ、真っ赤な畑は人の目をひいた。「どこかの新聞に載ると、別の新聞に載り、だんだん知られていきました」と説明する。

フェスティバルの期間中、撮影用に白いピアノが置かれたクリムゾンクローバー畑(葛尾村役場撮影)

 花には人々の心を捉える不思議な力があった。松本さんは花を見に来た人に何度も感動させられた。

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松本哲山さんのクリムゾンクローバー畑で。中央が松本さん、両脇はフェスティバルでフォトスポットを設営した花の観光農園「花の駅せら」(広島県)の関係者(松本哲山さん提供)

「午前6時か7時、畑の前に車が止まっていました。新聞で開花を知り、青森の自宅をその日のうちに出たというのです。運転していた夫は『大病をして苦労をかけたのに、妻に感謝の気持ちを伝えることができていなかった。ようやく元気になり、このきれいな花を見せに来た』と朗らかな表情でした。また、90歳ぐらいの男性は孫に手を引かれて来ました。私が椅子を勧めると、『生きていてよかった。こんなにきれいな花を見たことがない』と喜んでいました。何年も前の新聞を手に『ようやく来られた』と言う人もいました」