「私は『侘び 寂び 燃え 萌え』と呼んでいるんですが(笑)、空気感を楽しむ日本ならではのエンターテインメントが生まれてきました。
美少女から萌えへの変化を簡単に表現するのは難しいんですが、たとえばスナックという飲み屋がありますね。スナックは、形式上カウンターがあって、女性はカウンターの向こう側にいて接客しなきゃいけない。で、客は絶対にカウンターの手前側にいなきゃいけない。そこに接触はないけれど、直接に性的なものはなくても、女性性を感じることで癒される男性が通うわけです。美少女から萌えへの変化は、アニメのスナック化と言えます。それが少し極端な例では12人の妹と暮らす『シスター・プリンセス』になったり、最近では『ご注文はうさぎですか?』みたいな形のところまでやってきたわけです」
同時に、2004年にピークを迎えたDVDビジネスの衰退や、原作者との関係の変化、SNSの常態化など、現在につづく問題の萌芽がこの時期に見られるという。
混迷する現代の制作現場と「ホワイト社会」の影
ネットの普及や「2ちゃんねる」の誕生によって、現場にはかつてない「悪意」が流れ込み、スタッフを疲弊させた歴史を振り返りつつ、谷口氏は現在の最大の課題のひとつとして「ホワイト社会」の到来を挙げる。社会が複雑に、そして平和になればなるほど、野蛮さや攻撃性が嫌われ、クリーンな環境が求められる。これが岡田斗司夫氏のいう「ホワイト社会」の概念だ。
「私は、このホワイト社会とはつまり、全日本人がある意味京都人化していくという形と捉えています。できるだけ変なことしないようにしましょう、空気を読みましょう、露骨に反駁したりはしないようにして、同じ空間にいる相手だったりもそれなりに尊重しましょうみたいな。近年の‟なろう系”の主人公の造形はこのパターンが多いですよね」
このクリーンさを求める社会の空気は、アニメの表現そのもの、そして制作現場のシステムすらも変容させているという。1クール作品の乱発は製作委員会方式の成熟をもたらしたが、同時に現場の「徒弟制度」を崩壊させ、育成システムを麻痺させた。さらに、原作者(権利者)の力関係が強まったことで、現場の「演出」は混迷を極めている。第7段階「収益重視と演出思想の喪失」が現在の状況だ。
