決戦前夜に語ったこと
まずは斎藤に声を掛け、「(第4局・伊藤叡王の)142手目△3三桂に対して、▲3六銀から▲5四角成は素晴らしい手順でしたね」と言う。「桂を跳ねる手が見えていなくて慌てたのですが、そこで▲3六銀を発見しまして」とニコッと笑って説明してくれた。相変わらず丁寧でさわやかな受け答えだ。
伊藤にも「(羽生との)王位戦挑決すごかったねえ。あの歩頭への角打ちはいつ気がついたの?」と聞くと、「81手目に羽生先生が考えているとき(羽生が控えの桂を打った局面。伊藤の残り時間は4分)に気がつきました」と、こちらも柔和な表情で語ってくれた。
前夜祭は関係者だけで行われた。対局者挨拶で、伊藤は3年連続の対局場となる「柏の葉カンファレンスセンター」に感謝の気持ちを述べ、「悔いのないようすべてを出し尽くす」と強く決意を語った。
そして最後に「大盤解説会も豪華なメンバーでトークも盛り上がると思います」と締めくくる。私は思わずにやっと笑ってしまう。大盤解説のメンバーである我が石田和雄九段一門の弟弟子を持ち上げてくれたのだ。
一方の斎藤は、昨年初めて訪れた柏市の先進的な取り組みに刺激を受けたことや、敗戦後に「つくばエクスプレス」のガード下にある「かけだし横丁」で再起を誓った思い出を振り返り、再びこの地に戻ってこられた喜びと感謝を伝えた。
そして「悔いのない一局、悔いのない一手を集中して選んでいく。指していく過程を大切にして臨んでいきたいと思っております」と決意を語った。両者ともリラックスしており、状態は非常に良さそうだった。
ここ一番で先手を引いたのは伊藤
さて当日。最終局ということで再び振り駒が行われる。記録係の國井勝太三段がしっかりと駒を振って投げると、珍しく歩が2枚も立ってしまう珍事が起きた。振り駒では、立った駒と重なった駒は数えず、残りの駒で判定する。結果は歩が2枚、と金が1枚となり、伊藤の先手に決まった。
伊藤は相掛かりに誘導し、途中まで18局の前例がある普通の進行に。だが31手目、伊藤は角道を止める趣向を見せる。この大勝負のためにタイトルホルダー自らが用意してきた研究手だ。
そして、斎藤が銀冠に組み替えようとした瞬間の37手目、すかさず仕掛けた。斎藤も強く応じ、いきなり乱戦となる。後手の大駒が前線に現れている状況で、昼食休憩に入った。



