伊藤匠叡王に斎藤慎太郎八段が挑戦する第11期叡王戦五番勝負(主催:不二家、特別協賛:ひふみ)の第5局が、5月31日に千葉県柏市「柏の葉カンファレンスセンター」で行われた。
相掛かりとなった本局は、伊藤が金銀のばらけた陣形をまとめる絶品の指し回しを見せ、終盤の入り口でペースを握る展開に。勝てばタイトル獲得が決まる大一番。斎藤も負けじと執念の勝負術を繰り出していく。(全2回の2回目/最初から読む)
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「ヒエー!」三枚堂達也七段の絶叫が響いた
対局開始から9時間半が過ぎた。「このまま伊藤が押し切るか」というタイミングでモニターに目をやると、いつも優雅な手つきで指す斎藤が、体全体の力を込めた手つきで角を盤上に打ち下ろした。
「ヒエー!」と三枚堂達也七段が叫び、「読んでいないよ……」と佐々木勇気八段がうめく。この一手こそが、斎藤渾身の勝負手であり、新たなドラマの始まりだった。
トップ棋士のレベルが上がりすぎた現代将棋においては、苦しい局面で単に最善手を指すだけでは勝てない。最善手というのは相手側も読んでいることが多いので、そう簡単には間違えてもらえず、差が縮まりにくいからだ。あえて読みにない手を指す方が、混乱を誘いやすい。実際に、この勝負手が牙をむいた。
「自玉が居玉の危険な状態でずっと戦っていると、脳の消耗が激しい。伊藤さんも相当疲れているのでは」
と、高見泰地七段が指摘した。その予言通り、伊藤の指し手が乱れ始める。決めにいったはずの順が、なかなか決まらない。
19時になる。大盤解説会は最後の15分休憩に入る予定だったが、休憩中に佐々木が「もうやりましょう!」と声を上げ、5分早く3人そろって解説を再開することになった。佐々木が「イトタクは何を見落としたのかなあ」と言えば、三枚堂も「こんな大舞台の最終盤で、こういうことが起こるんですね」と固唾をのむ。
やがて、佐々木がすごい変化の手順に気がついた。斎藤八段が自玉の横に金を打てば、なんと「千日手」の筋がありうるというのだ。観客席からはどよめきが起こる。いや、観客だけでなく私もたじろいだ。
大盤解説会場は21時までと決まっている。ここから指し直すとどうなるんだろう。会場全体の注目が斎藤の手に集まった。
だが、斎藤は巡ってきたチャンスをつかめなかった。




