仕掛けと中盤の判断について
――仕掛けについては想定通りだったのでしょうか。
伊藤 相掛かりは分岐が多いですから、想定していたというほどではないです。この勝負のためというよりは、以前からあの形になったら、仕掛けようかと考えていました。△6五歩とされてからは、未知の展開になりました。
――玉から守り駒がすべて離れていく指し回しに、解説者は皆、驚いていました。
伊藤 あまり良い順が見つかっていなくて。昼食休憩までじっくり考えて、そこで「相手の視点」になって考えてみたときに、本譜の進行が有力そうだなと感じました。
銀を5段目に上がって▲3四歩を死守すれば、後手の駒を封じることができる。そこを主張にしようと考えました。
終盤の直線的な寄せ合い
――寄せ合いの場面、65手目の▲7四歩からはアクセル全開で踏み込みましたね。大盤解説会では、その後の一直線の取り合いで「飛車を取る手」を検討していたけど、これでは伊藤負けだなと。しかし、「イトタクが指したからには何かあるはずだ」と佐々木が言って、それで「金を取る手」を検討し始めたら、これなら勝ち筋ではないかと盛り上がっていました。
伊藤 一直線に駒を取り合うという発想が、最初はあまりなくて、最後のほうに気づきました。飛車ではなく、金を取ってやれるのだと。
ここで伊藤は、途中の大長考における読み筋など、計100手近くに及ぶ緻密な変化を淀みなく語ってくれた。その読みの深さと正確さ、そして受け答えの速度は、藤井聡太竜王・名人にインタビューしたときを思い出させるものだった。
斎藤八段の勝負手と予定変更
――そして、斎藤(慎太郎)八段が気迫の角(72手目△6四角)を打った場面です。
伊藤 本譜は技をかけにいって、あんまり決まっていなかったのが良くなかったですね。普通に金取りに歩を打っていればわかりやすかった。そうなれば、寄せ合いになっても自玉に詰めろがかからないので勝ちでした。なんかシンプルすぎて、逆にそんなに深く読まなかったというか(笑)。
本譜は桂を成るところ(▲5三桂成)で、別の手を指すつもりだったのですが、それがまずいことに直前で気がついて予定変更したんです。まだ残しているかと思っていたんですけど、全然そんなことはなかったです。



