千日手の筋は読んでいたのか?

――感想戦では、94手目に、角打ちに代えて金を打つ手が検討されていましたね。

伊藤 ええ。金を打たれたら、こちらは千日手にするのが妥当だったのかもしれないですが……。ただ、形勢がまだ良いと思っていたので、(千日手を)選べなかったような気もします。自分も対局中は、角を打たれる筋から考えていました。

――明確に「勝ちになった」と思った瞬間はどこですか?

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伊藤 ▲3三歩成を発見したときです。盤上に桂を残して、飛車を成れればいけると。

――1分将棋の極限状態であの発想が出ることに、周囲も皆感心していました。

控室での検討 ©︎勝又清和

激闘の五番勝負を振り返って

――改めて、今シリーズの感想はいかがですか? これほど秒読みの中で指し続けた五番勝負は、過去になかったのではないでしょうか。

伊藤 あはは(笑)。でも、前期の五番勝負も同じような展開でしたから。ただ、第3局、第4局と、長い秒読みの末に競り負けていたので、精神的に引きずるところもありました。勝てて良かった、というのが率直なところですね。

――お二人の間で、やっぱり「波長が合う」と感じる部分はありますか?

伊藤 そうですね。お互いに長考派で、一手一手、自分が納得するまで考えたいという棋風だからこそ、波長が合ったというのはあったのではないかと思います。

検分の様子(写真提供:日本将棋連盟)

――第4局はどのような心境だったのでしょうか。

伊藤 129手目の▲4五銀の局面は「勝ちがありそうかな」と思ったのですが、そこでうまい順を1分(の秒読み)の中では見つけられなくて。142手目に△3三桂と跳ねて「勝ってるんじゃないか」と思って指し進めていたんですけど、いや、▲3六銀で負けていたなと。

 実は、▲5四角成は指されるまで気づいていませんでした(笑)。斎藤さんに読みを上回られていましたね。

――シリーズ全体を通してはいかがですか? 今回は5局とも、本当に力の限りを尽くして戦った素晴らしい将棋ばかりでした。

伊藤 負けた将棋であっても、その内容を良くしたいと思って臨んでいました。そういう意味では、第3局と第4局で負けたのはやっぱり悔しいですし、反省もありますが、ファンの方に楽しんでいただけるような熱戦にできたのは、良かったのかなとは思います。

――「負けた将棋の内容も良くしたい」、本当に素晴らしい言葉ですね。