「イトタクはハッキリ指摘してくるんですよ」

 また、高見との解説パートでは、タイトル戦における対局者との会話について、興味深い持論を展開した。高見がかつて、タイトル戦の最中にうっかり対局者に話しかけてしまった失敗談を明かすと、佐々木はこう語った。

「タイトル戦というのは非日常なんです。対局中は誰とも話したくないし、誰からも話しかけられたくない。だからこそ、対局が終わって日常に戻ると、反動で誰でもいいから話したくなる。永瀬が終局直後に長時間の観戦記者インタビューに応じたり、YouTubeに出演したりする気持ちも、すごくよく分かるんですよね」

 なるほど、命を削るように戦う対局者の心情とはそういうものなのか、と腑に落ちた。

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 さらに話題は、伊藤の成長スピードへと及ぶ。佐々木は、伊藤が奨励会三段の頃から研究会を共にしている間柄だ。

佐々木と高見のW解説

「普通の若手なら、先輩棋士が『ここはこうですよね』と言ったら相槌を打つものだけど、イトタクは『そうですか?』とはっきり指摘してくるんですよ。そこが彼らしくていいなと」

 これを聞いて、私は思わず吹き出しそうになった。かつて勇気は、先輩たちからずっと同じことを言われていたじゃないか。

 佐々木は真顔で分析を続ける。

「イトタクは序盤が完璧すぎて、終盤戦になる前に勝ってしまうことが多かった。だからこそ、棋士になってから、終盤力が伸びてきた珍しいタイプ」

「イトタクなら間違いなく読み切っている」

 さて、局面に戻る。伊藤は「人間にはまとめるのが極めて難しい」と言われた局面を、絶妙の手綱捌きで切り抜けていく。69手目、自陣の危険を顧みずにと金で銀を取ったのが、深い読みの裏付けがある一手だった。斎藤が寄せ合いに出た場合は、飛車ではなく金を取り、飛車を成らせてから底歩で受けて一手勝ちだ。

 極めて難易度が高く、大盤解説会場で皆で意見を交わしながらようやく見つけた手順だったが、「イトタクなら間違いなくこの変化を読み切っている」と佐々木。伊藤への信頼度は凄まじいものがある。

 そして、斎藤は寄せ合いを断念し、と金を払って受けに回った。(つづく)

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次の記事に続く 「斎藤さんに読みを上回られた瞬間が…」伊藤匠叡王が対局の翌日、激闘のシリーズを終えた“率直な心境”を明かしてくれた

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