開業直前、“おいしくないラーメン”に妻が愕然

東京・西武柳沢に「たなか青空笑店」という人気店がある。

「食べログ」では3.68点の高評価で、西東京のラーメンでは堂々の3位という名店。しかし、この店は少し不思議なラーメン屋だ。店に入る前に靴を脱ぐ。店内の暖簾にはなぜか「ゆ」の文字。煮干しラーメンのお店なのに卓上にはタバスコ。限定ラーメンの札は段ボール製で、券売機の上に無造作に積み上がっている。

筆者撮影 西武新宿線の西武柳沢駅から徒歩3分ほどの距離にある。 - 筆者撮影

初めて訪れた人は、きっとこう思うだろう。

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「なんだこの店は?」

だが、その「違和感」こそが店主・田中宏樹さんの狙いだった。

「“変だね”って言われるの、好きなんです」

そう笑う田中さんの隣には、妻・奈実さんがいる。二人三脚で店を切り盛りする現在の穏やかな空気からは想像しにくいが、ここに至るまでには何度も修羅場があった。

特に、開業直前。

ようやく夢だったラーメン店を開くはずの夫が作ったラーメンを食べた奈実さんは、愕然とした。

「……これ、本当に出すの?」

しかも、それはオープン直前だった。

「厨房がステージみたい」とラーメン店にほれた夫

田中さんは千葉県佐倉市出身。高校卒業後は成田空港で、飛行機の清掃の仕事をしていた。

だが、次第に「この仕事は他の人でもできる」と感じるようになった。自分にしかできない何かを身に付けたい。そんな思いが膨らんでいった。

その頃から、東京のラーメン店を食べ歩くようになった。

もともとラーメンは好きだった。ただ、当時はマニアというほどではない。友人と空いている時間に食べに行く程度だった。転機になったのは、東京・上野の「麺屋武蔵 武骨」だった。

「厨房がステージみたいに見えたんです。働いているスタッフがめちゃくちゃカッコよくて」

ラーメンの味だけではない。照明、空気感、立ち振る舞い。そのすべてが輝いて見えた。

「自分もここで働きたい」

店を出たその足で、面接の電話をかけた。

2004年頃、21歳で飛び込んだラーメン業界。最初は「麺屋武蔵 新宿本店」に配属され、その後「武骨外伝」などで2年半の経験を積んだ。その中で、ふつふつと独立への想いが湧いてくるようになった。