「変なポイントをいっぱい作りたいんです」

田中さんは言う。暖簾の「ゆ」もそう。タバスコもそう。煮干しラーメンにタバスコを置く店など、普通はない。でも、「普通じゃない」がいい。ここにはパスタ店で9年間もがき続けた田中さんならではの感覚が活きているのだ。

「“田中さんって変だね”って言われるのが好きなんです」

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その「変さ」は、奇をてらっているわけではない。人と同じじゃつまらない。自分の店なんだから、自分にしかできないものを作りたい。

ラーメンライターとして全国各地を回っているが、「靴を脱ぐ」ラーメン店というのはほとんど見たことがない。席の回転率や手間を考えれば、靴を脱がせるのはご法度と考えられるからだ。

だが、田中さんは“恩師”島田社長の言葉に直感で乗った。

「お客さんに面白がってもらいたい」「自分たちらしい特別な空間にしたい」という純粋なこだわりを貫いたからである。

「変なラーメン店」がたどり着いた夫婦の形

同業者が「絶対にやらない」ような「普通じゃない」ことにあえて時間と情熱を注ぎ込む。成田空港時代、「他の人でもできる仕事」が嫌だった青年は、ようやく自分にしかできない店を作ったのだ。

今、夫婦の関係は大きく変わった。以前はすれ違いばかりだった。今は、一緒に働き、一緒に悩み、一緒に笑う。

「共有する時間が増えました。今まで少なすぎたんだなって」

奈実さんはそう話す。

子供の試合を見に行けるようになった。「幸せだな」と口にする回数も増えた。

田中さんも、「苦労はないかもしれない」と言う。もちろん、限定ラーメンのネタに悩むことはある。思い描いた味にならず、頭を抱える日もある。

それでも、夢の途中にいる。だから苦しくない。

かつて「独立させてくれないなら離婚しようかと思った」とまで追い詰められていた夫婦は今、同じカウンターの内側に立っている。

靴を脱ぎ、リラックスしてラーメンをすする客席を見ながら。そこには、「変なラーメン屋」だからこそ辿り着けた、夫婦の形があった。