博多豚骨ラーメンといえば、あの独特の熟成臭——いわゆる「クサウマ」こそが魅力という熱狂的なファンは多い。しかし、東京で本場の味が食べられる店は、豚骨人気とは裏腹に「ほんの一握り」だ。

 なぜ本物の博多豚骨ラーメンは広がらないのか。全国47都道府県を食べ歩いたラーメンライター・井手隊長の著書『ラーメンビジネス 麺好きから評論家まで楽しく読めるラーメンの教養』(クロスメディア・パブリッシング)より、その意外なワケに迫る。

写真はイメージ ©AFLO

◆◆◆

ADVERTISEMENT

「一風堂」や「一蘭」は人気だが…広がらない“クサウマ系”

「一風堂」や「一蘭」など博多豚骨ラーメンのチェーン店が隆盛を極める一方で、本場っぽい豚骨独特の熟成臭こそ豚骨ラーメンの魅力というファンも多く、いわゆる「クサウマ」系の豚骨ラーメン店は根強い人気がある。豚骨ラーメンがチェーン店を中心に海外に大きく広がっている一方、この本場感あふれるクサウマ系のお店はなかなか広がらない。都内で食べられるお店もほんの一握りで、豚骨人気とは裏腹に、貴重な存在となっている。これだけ豚骨ラーメン人気が全盛のなか、なぜ本場っぽい豚骨ラーメンは広がらないのだろうか。

 熟成臭のあるクサウマの豚骨ラーメンは「呼び戻し」の製法が一般的だ。大量の骨を強烈に炊き上げることで生まれる香りと旨味は、日々スープを継ぎ足しながら管理される。これが技術的に極めて難しい。スープは刻一刻と変化し、濃度や熟成臭を保つには経験と勘が欠かせない。

 一方、「取りきり」で仕込めば味は安定しやすい。「取りきり」とは寸胴に骨を入れて炊き、スープが完成したら骨を抜いて保管する方法だ。完成してからは濃度も変わらず、基本的に劣化しないので安定する。一方でクサウマの豚骨スープは常に生き物のように変動し、それを調整し続ける必要がある。まさに職人技であり、感覚を言語化しにくいからこそ弟子育成も難しい。結果として、多店舗展開やチェーン化が進みにくく、店舗数を伸ばしにくい構造的な要因となっている。

 さらに、豚骨を長時間炊き続けるため、ガス代や水道代といった光熱費の負担も大きい。近年のエネルギー価格高騰は豚骨ラーメン店にとって深刻なダメージである。個人経営規模では月数万円から十数万円単位でのコスト増となり、採算を圧迫する。