スポーツの熱狂は、人々の日常を少しだけ狂わせる。サッカーワールドカップ日本代表の大一番・スウェーデン戦があった金曜の朝、渋谷は異様な熱気に包まれていた。
今回は、スクランブル交差点のど真ん中で太鼓を打ち鳴らし、“主役”となっていた男性を紹介する。
「応援せずに後悔するなら、応援して死にたい」
試合終了後の渋谷。狂乱の交差点に、自前で持ち込んだ太鼓を叩く一人の男がいた。周囲から次々とカメラを向けられ、さながらアイドルのような熱狂を生み出していた彼だが、本業は会社員だという。
平日の朝にもかかわらず駆けつけた理由を問うと、「今日は休みました。会社を休める状況なら絶対に来ます」と即答する。
彼を突き動かすのは、4年に一度の祭典への執念だ。「98年から上がってきた今の日本代表を見逃すなんてあり得ない。仕事を理由に4年に1度のチャンスを逃すなんて……。応援しなかったと後悔するより、応援して死ぬ方がいいですよ」と、その言葉には覚悟が滲んでいた。
そんな彼から見て、現在の日本代表は「歴代最強」だという。「昔の日本人特有の“外国人への気後れ”がない。今は皆、普段から海外でやっていますから」と、強さの理由を分析する。
次戦はサッカー王国・ブラジルとの大一番。圧倒的な力でねじ伏せられ「喜べない結果になる可能性も高い」と冷静さも持ち合わせるが、それでも「もちろん次も来ますよ」と参戦を誓った。
だが、この熱狂には裏がある。
「会社にはただ『有給を取る』としか伝えていません。ここで太鼓を叩いていることは知りませんね」
交差点の熱狂と、会社員としてのリアル。彼は素性を隠したまま、再び雑踏の主役へと戻っていった。
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