クマにまつわる戦慄の実体験を描いた全15作品を収録した『怖い熊 傑作アンソロジー』(山と溪谷社)が5月19日に発売された。ここでは本書から工藤隆雄氏の「復讐するクマ」(初出:『マタギ奇談』ヤマケイ文庫)を抜粋して紹介。
マタギさえも震えあがった、クマの執念深さを物語る凄絶な実話をお届けする。(全2回の1回目)
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クマは撃った奴を覚えている
「クマという奴は人間が思う以上に賢い動物だ。なんせ、撃ったマタギを覚えているからな」
――クマは、鼻はいいが、目はあまりよくないと聞くけれど、顔を覚えているものなのか。
「正直、目なのか鼻なのかどちらかはわからないが、とにかく撃った奴を覚えていて、いつか仕返しをしてやろうとするのは確かだ。知り合いにクマを撃って怪我をさせたら、しつこく嫌がらせを受けたという奴がいたからな。きっと全身で覚えているのかもしれない」
――クマが人間に嫌がらせをするのか。
「そうだ」
山形県の大鳥マタギの工藤与一(※)はそういうと、こんな話をした。
与一には寅蔵(仮名)という仲のよいマタギがいて、よく山に一緒に行った。そして、クマを獲っては、肉を集落の人に配り喜ばれた。
その日も二人はとある峠に行き、クマが来るのを待っていた。なぜ、峠かというと、クマは餌を食べるために朝と夕方に移動するが、なるべく楽をしようとするのか、高いところを越えず、山と山の間にある窪んだところ、すなわち峠になっているところを歩く習性がある。そのため大勢で獲る巻き狩りと違い、少人数のときは峠で待つことが多かった。
しばらくすると、クマがやってくるのが見えた。寅蔵も与一もクマが近づいたら撃とうと銃を構えていた。最初に見つけたのは、寅蔵だった。与一にはクマが木の陰になってよく見えなかった。寅蔵が引き金を引こうとしたそのとき、背後から風が吹いた。とたんにクマが鼻を高くして風の匂いを嗅いだ。すぐに人間がいることを知ったのだろう、すばやく反対側の斜面に逃げた。寅蔵は引き金を引いた。銃声がし、クマの肩の部分に当たった。肉がはじけ血が飛んだ。クマはすぐに当たった部分を嚙んだ。
撃たれた部分を嚙むのは、クマの習性である。人間が怪我をしたところを手で押さえるようなものだ。
