という共通点と相違点の中で、松田聖子と中森明菜、この「ライバル関係」は、まだまだ旧態依然とした昭和社会の中で、女性の生き方の可能性を、音楽界全体に、音楽界から日本社会全体に広げたといえるだろう。
2人がいなければ、日本の女性は、今でももっと窮屈に生きていたのではないか。松田聖子と中森明菜、この「ライバル同士」が残したのは、つまりはそういうことである。
最後に、この80年代を駆け抜けた2人の「ライバル関係」に深みと奥行きを与えるのは、中森明菜が松田聖子のファンだということである。25年4月22日放送のTOKYO FM『THE TRAD』という番組に出演した明菜は、「発売日に(レコードを)いちばんに買いたくて、レコード屋が開く前から自転車で漕いで」と、デビュー前に聖子のデビュー曲『裸足の季節』を購入した際のエピソードを語ったという。いい話である。
そしてアルバム『ZEROalbum〜歌姫2』(02年)での『瑠璃(るり)色の地球』のカバーに続いて、2025年11月配信の松田聖子オフィシャル・トリビュートアルバム『永遠の青春、あなたがそこにいたから。』では『赤いスイートピー』(82年)を披露した。
松田聖子に対して中森明菜が抱いた憧れから始まった「ライバル関係」、その共通点と相違点が、80年代の女性の憧れを喚起していくという物語である。
音楽評論家
1966年大阪府東大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。ラジオDJ、野球文化評論家、小説家。音楽評論の領域は邦楽を中心に昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広い。著書に『沢田研二の音楽を聴く 1980-1985』(日刊現代)、『大人のブルーハーツ』(廣済堂出版)、『サブカルサラリーマンになろう』(東京ニュース通信社)、『幸福な退職』(新潮新書)、『弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる』(ブックマン社)など多数。
