アンネと恋に落ちたペーター
――『アンネの日記』では隠れ家の住人が主に描かれますが、この中で特に印象的な人はいますか?
小川 まぁ誰か一人を選ぶ必要もないとは思うんですけれども、でも、私も家庭の中で一人息子を育てたので、ペーターです。
――ペーター! 最初はアンネも特に意識していませんでしたが、隠れ家生活が長引くうちに、お互いに惹かれ合って恋に落ちますね。彼は、アンネの父のビジネスパートナーであるファン・ダーンさん(日記の中での呼称)の息子でした。
小川 読み返していくと、ペーターはアンネより2つ年上で隠れ家に入ったときは15歳。あの思春期の難しい時期の男の子が窮屈な生活の中で、女の子には分からない沢山の葛藤があったはずなんですが、ペーターが暴れるとか、なにか問題を起こすとか、そういうことは全然ないんですよ。ペーターとアンネのお姉さんのマルゴーは、とってもいい子!(大きな声できっぱり)。
ペーターだって、棒で窓ガラスをたたき割りたいぐらいの感情の爆発がもしあったとしても、あのストレスフルな環境では当然ですよ。尾崎豊が多感な青春の葛藤を歌った「十七歳の地図」みたいに(笑)、一番親に反抗したい年頃です。
だけど、冷静にふるまうし、力仕事も率先して手伝うし、泥棒騒ぎのときは泥棒が出た隠れ家の階下を見に行く。そして、アンネに対しても本当に紳士的。アンネの誕生日にはミープにお金を渡して「お花を買ってきてください」と言うんだけれども、お花を渡したらアンネの心は離れていたのか、薄い反応だったようで(笑)。恋も報われない、成就しないという……。
でね、ペーターは最後の方まで生き延びていたんです。でも最期は、アメリカ軍による収容所解放に3日だけ間に合わなかった、という亡くなり方でした。
ペーターも言いたいことがいっぱいあったと思う。彼が本当に言えなくて書き残せなかった、表明できなかった声というのが、今の私たちの時代にも無音ながら響きわたっている気がします。
(3回目に続く)