西村 客家とは、諸説あるんですけれど、中国の中原という漢民族のルーツと言われる場所から南に移り住んだ漢民族の一部、とされています。独自の言語と独自の文化を持ったエスニック集団で、中国の南部に多く住んでいる。台湾にも17世紀以降、福建省や広東省から多くの漢民族が移住するわけですけど、福建省からは閩南語(びんなんご)とか台湾語とかホーロー語と言われる言語を話す人たちが中心に移ってきた。広東省からは、広東語を話す人ではなくて、この客家語を話す、客家の人たちが台湾に移り住んだということですね。それで台湾でもこの客家の人たちがたくさん暮らす地域っていうのがいくつかあるんですけど、この三義というところも、そのうちのひとつなんですね。

 西村氏はここで、この映画を観て連想した映画のひとつにホウ・シャオシェン監督の『冬冬(トントン)の夏休み』(84年)を挙げた。『冬冬の夏休み』で主人公と妹が到着する駅は、三義の隣の駅だという。ホウ・シャオシェン監督は外省人で、戦後に台湾に移り住んだ客家。リー・シン監督のもとで脚本や助監督をして映画を学んで、師弟関係にあったと言われる。ちなみにリム監督はマレーシアの客家である。

西村正男教授 ©台湾映画上映会2026

リム 『小さな町の恋』の主演のジョアン・リンも、ケニー・ビーも客家語は話せないわけですから、これは吹き替え版です。この映画をデジタル・リマスターしたときに、監修した人がリー・シン監督の遺志を尊重して、客家語の吹き替え版を作ったんですよね。僕は台湾の映画祭で、この客家語バージョンのワールドプレミアを観たんですが、その時上映されたリー・シン監督の作品3本で主題歌を歌っているのがテレサ・テンです。

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(左から)リム・カーワイ監督、西村正男教授 ©台湾映画上映会2026

西村 昨年、岩波書店から『華語圏映画入門』という本が出まして、リム・カーワイ監督のインタビューも載ってるんですが、私も「華語圏映画と女性歌手」というコラムでテレサ・テンとリー・シン監督のことを書いてます。リー・シン監督はけっこうテレサ・テンを主題歌に起用しています。最初はこんな小娘にこんな難しい歌が歌えるのか、と思っていたという記事を見たことがありますけど、実際にはとてもうまく行った。『小さな町の恋』の主題歌は、すごくシンプルなメロディで、これを上手く歌いこなせるっていうのはやっぱりテレサ・テンじゃないかな、という風に思っています。